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軍政。不条理な、あまりにも不条理な

身近という範囲は、人によって違う。もし自分と関わりをもった人がいる範囲が身近ということだとしたら、僕の場合、北西部ミャンマーも身近な範囲。そこから切実に打ち明けられる悩み事は、僕にとっても切実な身近な悩みになる。

相談にのれる日時を決めて、チャットしようとしたけど、ちょっと疲れてたので、風邪かも、と言って延期することにした。
すると彼女は、つたない日本語で、一生懸命書いてきた。

先生,ミャンマーじんは 自分をおしえてくれた先生たちをいつも おもいだします。それで;おしえてくれた先生たちは 病気になるとき;家に行って;せわをします。(れい。薬を買うとか おかゆを作るとか します。)
先生,病気になるときだけではなく; 先生たちは何か 必要のとき;いつも,てつだってくれます。それで;私,にほんに 行ったら;先生をおせわをしてあげたいです。

彼女は軍事クーデターが起きる前からミャンマーの僕の学校の生徒だった。そして、今もそう。しかし、そうとはいえない。なぜなら、クーデターを起こした側だから。

彼女には全く責任はない。ただ、父親がクーデター側で、重要な働きをしていただけで、周囲から孤立し、具体的には書けないけど、大きな暴力にさらされ、村八分状態になっている。彼女自身は全く悪くない。周囲の元友人たちも、それは分かっている。ただ、彼女の家族全員が破壊対象とされているだけだ。

戦争や内戦は、映画とは違って撃ち合いをする前線だとか、戦闘機やヘリやドローンによる空爆とか、そういうものではない。そういうものは、分かりやすくするために誰かが切り取った、内戦のごく一部。
そんなふうに、分かりやすく、敵と味方に分かれて戦い、殺し合うわけではなく、ちゃんと入り混じっている。これが大部分。

生活の維持。物価が3倍にも上がり、収入源が断たれ、外出に危険が伴い、賄賂行為が蔓延し、理不尽な暴力が日常的となり、、、そういう中でも生活を続けなければならない人々の日常生活の維持、あるいは生き抜くことが内戦の当事者であるように思う。

彼女は、他の人と同じように海外で働くのがいいに決まっている。その才覚も語学力も十分持ち合わせている。しかし、彼女の周囲が彼女をサポートすることはない。それどころか、彼女に関わるとなると、まるで悪いウィルスが感染してしまうかのような態度になってしまう。話し合えばいいとか、妥協点を見出すとか、そういうものはない。これが内戦だから。結局僕は安全なガラス窓の、こちら側にいる人間だから。

今回も、聞くことしかできない。ただただ話を聞くしかできないだろう。暗い納屋のような中で、ニコニコ笑いながら、彼女は重たい複雑な悩みを相談してくるだろう。家を焼け出されたり、犬に噛まれたり(向こうの野犬は狂犬病にかかっている犬もいます)、肝炎にかかったりしながら、いくつかの、か弱い希望を持って生きている。

僕は、あまりにも、何もできない。

軍政、許すまじ。そんな単純なことではない。軍政を生み出した決定的な遠因は、80年前の日本とそれ以前の宗主国イギリスにあることを忘れてはならない。




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