【有害事象】下痢評価ポイント
今回は下痢の評価ポイントについて記載いたします
おすすめの書籍は今までと同じように以下に記載します。おすすめ書籍がなくてもわかりやすいようにまとめますが、より詳細を知りたい方は購入をご検討ください。
客観的評価(CTCAE)
まずは下痢のGrade評価です。
例の如くCTCAE分類を以下に記載します。
記載の通り下痢の評価を行う際には人工肛門(ストマ)の使用有無が必須です。大腸がん術後症例では人工肛門使用患者が多いので評価する前には必ずストマ増設を行ったか確認しましょう。
また便秘とは違い下痢の有害事象評価には「ベースライン」を用います。排便回数は人により大きく異なりますので、患者に応じた基準を設けます。その基準がベースラインと呼ばれます。
ベースラインは『治療開始前の排便回数』のことです。例えば、抗がん剤治療が毎日1日3回の排便がある方の場合は『ベースライン3回/日』のように記載されます。ベースラインが3回の患者が抗がん剤治療開始後に排便が毎日6回に増えた場合はベースラインと比べて3回の排便増加になり、「<4回の増加」に該当するのでGradeは1とされます。しかし、仮にベースラインが1回の方が毎日6回の排便になったときには増加回数が5回(4−6回の増加)になりますのでGrade2と評価されます。このように排便回数が同じであってもその患者に応じて評価が変わりますので注意してください。
主観的評価(ブリストルスケール)
ただし、ベースラインだけで重症度を測ることはできません。
ここで一度便秘の評価ポイントで記載しましたブリストルスケールについて再掲します。
排便回数に変化はないがBSFS3だった人が6の水様便になったらCTCAEとしては下痢出現なしです。ただ、患者としては下痢が起きたと感じますし日常生活に支障が出てしまうことがあります。このように客観的な情報だけではなく患者の主観的な情報をもとに評価を行うことも重要です。
支持療法
以上を踏まえた上で、支持療法で何を提案するかが重要になります。
私がよくみる症例ですと一般的にはロペラミドが使用されています。
下痢の程度に応じて頓服、定時服薬をあわせて提案すれば問題ありません。
レジメンによっては開始数日は便秘するけどその後は下痢しやすくなるというケースもあるのでロペラミドとセンノシドの併用は必要ないか詳細聴取を忘れないようにしてください。
【注意】イリノテカンの下痢の場合
しかしイリノテカンでの下痢の場合はロペラミドなどの下痢止めを使用することでより下痢が悪化し、最悪の場合死亡するケースも存在します。
イリノテカンの下痢は早発性と遅発性に大別されます。この2つは発生機序が異なり
早発性:コリン作動性による
遅発性:SN-38の腸管刺激による
といった特徴があります。
参考までに以下にイリノテカンが代謝される経路を載せておきます。
遅発性下痢はSN-38が腸管循環することで生じます。また、この腸管循環は腸内環境が酸性であるほど悪化しやすいと言われています。ですので支持両方にはその点に対するアプローチが必要になります。
イリノテカンの下痢に対する支持療法
早発性下痢と遅発性下痢に分けて一般的な対応薬剤を列記します。
早発性であればコリン作用を抑える抗コリン薬を使用し、症状改善を測ります。
こちらは特にかわった薬剤ではないので説明を割愛します。
遅発性であれば刺激性物質であるSN-38を早く排出させる必要性があります。
そのためには便のアルカリ化を図る炭酸水素マグネシウムを投与します。
半夏瀉心湯はSN -38が脱グルクロン酸抱合阻害作用があります。脱グルクロン酸抱合阻害作用があるとSN-38は腸管循環を受けることができなくなり、早い段階で体外へ排出されるため下痢症状緩和につながるとされています。
そのほかにもエビデンスは低いですがウルソデオキシコール酸(UDCA)も腸管循環に関与してイリノテカンの下痢を抑制するとされています。
どの薬が優位に優れているかははっきりしていない部分もあるのでこのご時世状況を考えると漢方製剤よりも炭酸水素マグネシウムで様子を見て、それでも改善されないときには頑張って漢方を探すというのがいいのではないでしょうか。
最後に
今回は下痢について簡単にまとめてみました。今後はこのページに下痢が起きやすいページを追加していきます。改訂次第アナウンスしますのでぜひ楽しみにしていて下さい。
下痢は病院薬剤師・薬局薬剤師問わず良く相談を受ける副作用の一つです。
本記事が参考になり1人でも多くの患者が有害事象の苦しみから緩和されれば幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。