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ずーっとぼんやりと好きなシンガーの人の話

わたしがずーっとぼんやりと好きなシンガーの方のはなし。
わたしがドルヲタをしてた頃、対バンとかでその方が出てくることがたまーにあった。

当時のわたしの推しはでっかい夢を掲げていたし、推してるこっちもそこそこの熱量だった。
それが普通というかマジョリティで、それはどこの界隈でも似たようなものだと思う。

でも件の人は「私は大きくならなくていい。みんなと近くにいると、お互いに感じられる距離でずっと活動していたい。」と話していて、当時のわたしはなんだか釈然としなかった。

アイドル然りシンガー然り、大きくなろうと思う思わぬに関わらず、ある程度の人目につくようになれるのは、願ってもほんとひと握り。

「知る人ぞ知る」と言われるレベルでさえ、界隈においては超有名人クラスを指す言葉なんだと、当時からうっすら感じていた。

みんなその先を目指しているし、目指すべきである。

そんな風に考えていた当時のわたしは、その人の考え方に対して『そんなの、ただの不戦敗じゃないか』なんてひどい事を思っていた。

当時からその人に対してすごくすごく好意があったんだけど、その思想だけが、どうにも理解できなかった。

そして、あれから10年近くが経った。

大きな夢を掲げていた推し達は、夢への階段を登ったり登らなかったりしつつもそれぞれの人生へ進んでいって、そのほとんどは活動を引退した。

かたや私はVSingerとして活動をはじめ、破竹の勢い、とまではいかずとも、牛歩ながら着実に夢を叶えていっている。

はじめは年に1回だったライブ出演も、やがて月に1回を超えるようになった。今年は30のライブに出た。

数十人から数百人が入る程度の世間的には小さな会場に、十数人のファンが来てくれる程度。

どのライブも思い出深いし大切で愛おしい時間。
でも、わたしはもっと大きな会場でライブをする。それがファンのみんなとの夢であり、約束だから。

でも、あの当時は愚かにも気付かなかったことがある。

それは、ライブの数が増えていくほど平均動員数は減っていく、ということ。

ライブが数日に1度あるのが当然、というアイドル界隈ばかり見ていたせいかもしれない。
途方もなく当たり前のことに、全く気付かなかった。

ファンの総数は減っていなくとも、分散するほどに目減りはしていく。やがて数が増えるほど、その日だけの色を出すことも難しくなった。
そのうち、お客さんだって慣れてきて「まぁこの日はいいか、また今度にしよう」となっていくに違いない。

このまま続けていって、本当にいいんだろうか。
夢にも届かず、小さな箱で続けることさえ叶わず、いつかは失速してがらんどうの会場に逆戻りしてしまわないだろうか。
そんな未来をファンの人達に見せてしまっていいんだろうか。

いつまでも小さな箱から変わらないわたしを、ファンのみんなは変わらず応援できるんだろうか。

そんな葛藤がよぎると、今度はライブを減らそう減らそうと躍起になりそうになる。

もちろん、ファンの負担を減らすとか、一度の動員を増やすとか、合理的な理由もないことはない。
でも、わたしがそれを選ぼうとする一番の理由は「逃げ」だ。

もちろん、たくさんのライブに出たからこそ得られたものも多いし、なんだかんだでほぼ毎回「初めて来れました」という方に出会う。

そもそも数を増やそうと決めたのも「その日に無理しなくても『またね』が出来るように、いろんな場所で沢山ライブをしたい」というのがはじまりだった。

やっぱり続けよう。
今日もそんなことを考えていた。

そうして思い出したのが、件の人だ。

あの頃は、あの人こそ逃げていると思っていた。
夢を追わなければ、小さな箱でも続けていけるのが当たり前だと思っていた。

とんでもない大間違いだった。

きっと世間的には「成功していない人」なのかもしれない。
でも、今となってはあの人がいかにすごい人であるか、よく分かる。

依然としてわたしは「でっかい夢を追いかけて遮二無二やるのがかっこいい」という考えから変わっていない。
わたしが応援したいのはそういう子だから、わたしもそう在りたいと思っている。

むしろ「この子、おれ昔っから応援してんだぜ」と誇りに思ってほしいので、遠くなるくらいがいい。

ふと気になって検索したら、その人はまだ活動を続けていた。活動11周年だそうだ。
直近のイベントには50人前後が集まっている。

「みんなと近くにいるとお互いに感じられる距離でずっと活動していたい。」
ゴールではなく今を叶え続ける夢もまた、同じくらいにでっかくて、かっこいいなと思った。

わたしはzeppのステージから客席いっぱいの笑顔がみたい。
でも、ゴールにしたいわけじゃない。

この人のように、ずっとずっとファンの人たちと寄り添って、大切な時間を積み重ねていきたいな、と思いました。

おわり


P.S.
書いたあとで「本当にその人そんなこと言ってた!?本当に!?!?」って自信なくなってきました。
いや、言ってた……言ってた気がする……公式LINEで……ほんとかな……たぶん……たぶんほんと……。

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