急いだ先に良いこと無し
人生で初めて骨折した。
なんて不運な、と嘆くより自他ともに認めるおっちょこちょいの私。
年中そこらにぶつけているので、ついにやっちまったかー!という気持ちでいる。
骨折は初めてだけど、骨折に近い捻挫という怪我をしたことがあった。
私が小学生の時に体育の授業でハードル走があった時のこと。
今考えたら、普通にまたぐよりも高さがある障害物を何回も飛び越えて走り抜けるなんて、かなり危険な行為だと思う。
案の定、着地の時に足首をグキッと捻った。保健室に着いた頃には、足首が腫れあがって、くるぶしは完全に見えなくなっていた。
母と一緒に病院に行って、先生に
「骨折に近い捻挫なので、治るのに時間がかかりますね」
と言われたことを覚えている。
骨が折れなくて良かったと言われたが、くるぶしが見えなくなる程に腫れあがった足を見て、良かったとは到底思えなかった。
その時に回避した骨折、それをアラフィフのこの年で、しかもただの不注意でやってしまったのだ。
朝、リビングのテーブルにスマホを置いてからキッチンで朝食の準備をしていた。その時にアラームがスマホから鳴った。
「ママ、アラームずっと鳴ってる!」
いつも娘に言われていたから、慌てて止めようとしたのよね。
バイトで娘はもう家に居なかったんだけど。
なんか反射的に。
急いで止めなきゃ、それだけのことだった。
キッチンから勢い良く飛び出し、スマホへ走った。
マンションのキッチンからの距離なんてすごく短い。そして狭い。
その狭い隙間の横に置いておいた椅子の脚に私の足がひっかかり、思いっきり左足をぶつけてしまった。
「痛い!」
ちゃんとアラームを止めてからうずくまった。
手の平で足の甲を抑えて痛みをなんとか吸収しようとじっと耐えた。
痛すぎる…何度かぶつけているあの椅子!
パイプを使った椅子の脚は少し外側にゆるく曲線を描いていて一見しゃれているが、足の指と指の間にパイプの脚が挟まって、何度か痛い思いをしたことがあった。椅子との距離感が全く掴めてないまま、えっと10年くらいは使ってるんだけどね。いい加減、覚えなさいよって話。
その度に「買い替えてやるー」と言っていた、あの椅子。
そこに一時的に置いたのも、私。
誰も攻めることはできない。
そっと抑えていた手を放すと、そこには見たこともない光景があった。
普通ならまっすぐ揃っているはずの足の指。親指以外は、隣の指にちょっと寄り添っているような指たち。それが、左足の薬指だけ外側にポキッと横を向いているじゃないか!
時計でいうとみんな普通12時の方向でしょ、それが薬指だけ第2関節が10時の方向に向いていた。
力が抜けた。
痛い、痛い、痛い。
ズキズキする痛みと一緒に心臓がドクドクしている。
「まったく何してんだよー、慌てるなよー」
またいつものおちょっこちょいぶりを笑っている夫。
足の指を見せると、さすがにびっくりした様子で無言。
「やばいよね、これやばいやつよね?」
私が半泣きで聞くと
「脱臼?かもしれないから、まっすぐにしたら戻るかもよ」
あっち向いちゃってる指に触れた途端、痛みが走る。
「無理むり!なんか力抜けてて無理!」
もう触れるのも怖かった。
その日、運悪く日曜日だった。
救急で診てもらうにしても整形外科で休日診療している病院を探すのは至難の業だった。近所の整形外科は休診中だ。どうしよう、どこに行こう。
そうだ、消防署に勤めている友達の旦那様が、救急相談センターがあるからって教えてくれたことがあったっけ。子どもが赤ちゃんの時に緊急事態に備えて電話番号をメモしていた。でも、そんなメモとっくに捨てちゃったな。
最初笑っていた夫も病院に電話をしてくれている。なにか電話口で聞いた番号をメモしているた。それが友達が教えてくれた番号だった。
#7119に電話をして、私の状態を伝えてから病院を何件か教えてもらえた。
近くの総合病院、救急相談センターで聞いた病院に片っ端から電話をかけてみる。
今日は休日で内科医しか居ない、などの理由で全て断られた。
痛みが少し治まった私もスマホで「整形外科、休日診療」で検索することにした。
「整形外科、日曜、休日、診察、近く」検索ワードを色々変えながら、ひたすら探す。
夫は近くの救急病院に電話を何度もかけて、ようやく繋がった時だった。
受付の人に「整形外科医は居ないが、診てもらえるかどうか先生に確認して折り返します」と返事を貰い、折り返し待ちとなった。
かなり時間がかかると思います、そう最後に付け加えられて。
検索で出てきた隣の駅の病院に目が留まった。娘の幼稚園の近くで土地勘もある場所だった。あそこの駅側に病院なんてあったかな?
ホームページを見ると院内の綺麗な写真が並んでおり、新しそうな病院だった。新しくできたばかりの病院みたい。ここなら近い。
画面をスクロールしていくと
予約なし
土日祝日診療
駐車場あり
昼休みなし
そして診療科目に整形外科があったのだ。
「見つけた!あった!隣の駅」
曲がった指のまま明日まで過ごさなきゃいけないのかと不安の中に見えた光!大袈裟じゃなく、そう思った。
休日診療のしかも整形外科!本当にありがとうございます!
電話をして診てもらえるか確認するとすぐ来てください、とのこと。駐車場は3台あって、場所も丁寧に教えて貰い、慌てて向かった。
車で隣の駅はすぐ。10分もかからず到着した。駐車場は満車だったが近くにパーキングもあって、夫はそこに停めてから行くから先に行ってと、病院の目の前で下ろしてもらう。
そんなに混んでないタイミングで、わりとすぐ診てもらえた。
「あぁ~折れちゃってるね。このままで固まると大変だから直すね」
と、あっち向いちゃってた指を12時に正された。
先生の机の上に手を付いて、踏ん張るくらい痛かった。激痛!
レントゲンを撮って、骨折の状態を目でも確認してからしっかりと固定され包帯姿になった。
「どのくらいで治りますか?」
「3~4週間かなぁ…」
約1ヶ月かぁ…
でも診て貰えたことで安心した。たかが指だし、安静にしてれば3週間くらいかなと勝手に良い方へ解釈した。
ここの病院は、通年休日診療をしていることも分かった。おかげですぐ処置してもらえて本当に助かった。そして先生も受付の人も優しかった。今後、整形外科はこちらでお世話になろう。お世話にならずに済むことが一番望ましいけど。
休日までお仕事、本当に先生ありがとうごさいます。帰りの車は、感謝の言葉を連発していた。
家に戻って間もなくして電話が鳴った。
折り返し待ちの病院だった。他で見つかり、診察して貰えたと伝えた。
そしてここから1ヶ月以上、骨折での暮らしが始まった。