「もう間に合わない」 とあきらは思った。
「あの、これ使います?」 ふいに、後ろから声を掛けられ振り返ると、女の子、いや、女性が見上げていた。
「え?いや、大丈夫です。申し訳ないです、使えません。お気持ち、有り難う」と、あきらは驚きながら言う。
「でも使って下さい。私はもう使ったから必要ないんです」と、女性は言い、あきらの手を取り、握らせた。
「いや、受け取れません」と、返そうとした瞬間に、女性は微笑み、さっと走って階段を駆け上がり消えてしまった。
「どうしよう」とあきらは手を見つめた。 時間を確認し、間に合わないと確信する。
「でも、行ってみようか。」「ダメならそれで良い。でも、行ってみよう。」
あきらは、そう声に出して言うと、係の人の制止を振り切り飛び乗った。
ドアが閉まるのと同時にあきらは乗り込んだ。
外を見る。景色が進む。自分の心臓の音が耳の奥で大きく聞こえる。
乗らなければ良かったかも知れない、とあきらは既に考えていた。
どうして乗ったんだ、と、手を握り締め、緊張に耐えられず、目を閉じた。
一瞬だと思ったが随分と経ったようだ。到着を知らせる音が聞こえる。 外を見る。
「わー!真っ白だ。なんてきれいなんだ」 あきらはその景色に感動した。そんなものは今まで見た事も無かったからだ。
ステーションの外への出口を探し、光の方へ歩き、外へ、出る。
真っ白で、キラキラと輝いている。 時計を見る。随分と約束に遅れてしまっている。
「待ち合わせ場所、目印は、そうだ、灯台。しましまの灯台」
真っ白な中に霞んで、それはすぐに見つかった。側まで歩いて行く。
言われなければ灯台だと解らない、でもここは間違い無く、待ち合わせの場所だ。
君と一緒に削った名前。 ただ、5億46万年の遅刻だ。手の中を見る。「地球行き」切符。
遅刻したけど、君は戻って来る。「遅い!」と怒りながら。 だから、僕はここで君を待つ。僕の遅刻にちょっと足して、6億年ぐらいかな。
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