はさみ。

さっちゃんは、考えていました。

どうしても、隣にいるのケンタくんみたいに使えなかったから。

幼稚園の先生に言われた「こっちは、お友達に向けちゃいけないものですよ」

という約束は守っているのに。

ケンタくんは、いつもさっちゃんの方に「こっち」を向けてくるので、先生に怒られてばかりいます。

なのに、ケンタくんの方が上手に使えるのです。

おうちに持って帰って、頑張って動かしてみたけど、お母さんが言うような「チョキチョキ」にはなりません。

がっちゃん。がっちゃん。

お父さんは、「こらこら、あぶないから、はやくしまいなさい」と言いました。

お母さんは、「どうして、はさみだけ、ぶきっちょさんなのかしらね」と言いました。

さっちゃんは考えていました。

ちゃんと、黄色の部分のちいさい穴に、お父さん指を入れて、もう一つの方にはお母さん指。

でも、がっちゃん、がっちゃん。途中でするっとお母さん指が抜けてしまいます。

今度はちゃんと握ってる。でもそうすると、全然お父さん指とお母さん指が、はなれてくれません。

なんでだろう。

次の日、先生は、みんなで七夕飾りをつくりましょう!と言いました。

さっちゃんは、頑張って練習したんだからと黄色のはさみを使います。

がっちゃん。がっちゃん。かしゃーん。

手からするっと落ちてしまいました。

すると、ケンタくんが「こっち」を向けて言いました。

「こっちはね、こうするの。ほら」

チョキ、チョキ、チョキ。

ケンタくんは上手に折り紙を切っています。

さっちゃんはじーっと、ケンタくんの動きを見てみました。

上手にはさみを使ってみたい。

さっちゃんは毎日、うーんと考えてひとりで練習をしたので、ケンタくんとさっちゃんの動きが違うことに気がつきました。

ケンタくんのはさみの先が小さく、小さく、そして少しずつ前に進んでいるのです。

「ありがとう。ケンタくん」

さっちゃんは、はさみの先を小さく、小さく、少しずつ前へと進めていきました。

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