日輪を望む6―一貫斎魔鏡顛末
又兵衛の一人語りの後、刹那の沈黙を経て一貫斎が言葉を絞り出す。
「そういえば、神社などで祀られている本尊には鏡もある。そうした中には、光を反射し、本尊の姿や梵字が浮かび上がるようなものがあると聞く。神鏡や魔鏡がこうしたものに当たるな」
部屋には、鏡を研磨する音が響いた。しばらくして又兵衛が問う。
「それで、こうした鏡のからくりに心当たりはございますか」
一貫斎は、顎に手を当てて眉の根を寄せた。
「ないこともない」
そう言って、部屋の行灯に火をともし、部屋の隅から凹面鏡をいくつか持ってきた。
「壁を見ていろ」
行灯の側面の小窓を開け、凹面鏡に炎の明かりを反射させた。壁に光の輪が浮かび上がる。
「円の右下を見てくれ、何か雲のような模様が浮き出ているのが分からんか」
「確かに、ここら辺りに見えるな」
映し出された壁の方に行き、その辺りを指さす。部屋は、日没時刻に近づき、闇が増しつつあるため、暗がりから浮き出て見える。
「これは、鏡の磨き方が身についていないため、ムラが出たのだ。反射が一様に行われずこうした文様が浮き出る」
又兵衛が、感心したように言葉を絞り出した。
「それを、絵図の形にすることはできるので」
「できる。緻密に下絵を描く必要はあるがな。この凹面鏡の仕組みと少し似ておる。探求するか」
(滋賀県文学際に投稿したものを改稿)
〈続く〉
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