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【禍話リライト】こっくり譚「目」
禍話レギュラーのこっくりさんの話を集めてこられるKくんの話は、バリエーションが本当に豊富で、それがかぁなっきさんの語りで紡がれるのだから、毎回、怪談の奥深さを感じる。
今回も、きっかけは「こっくりさん」だが……という話。
【こっくり譚「目」】
現在50代のAさんが小学生の頃、「後ろの百太郎」などの影響で学校でこっくりさんが流行っていたという。もちろん、全校集会などでは、禁止されていたが、先生が放課後に教室を巡回するほどではなかった。しかしながら、こういうものは禁止されればされるほどやりたくなってしまうものだ。
話を聞かせてくれたAさんは、『家でやれば怒られることなどないだろうに。性懲りもなく』と思っており、こそこそと放課後の教室でこっくりさんに興じる同級生の女の子の気持ちは分からないでいた。
ある放課後、Aさんは机を囲んで紙の上でコインを滑らしているクラスメートにこう言ってしまったという。
「先生がやめろと言ってるんだから、ここではやらずに家でやればいいじゃん。誰かの家でやれば怒られないんだし」
正義感が強いというか、一言口に出してしまう性分だったのだという。しかし、リーダー格の女の子の「うるさい」というセリフ一つで会話は終了してしまった。内心『対話はできないのか』と思ってその日はそのまま学校を後にした。
別の日、家に帰るために教室の入り口を目指していた。しかし、そのためには机を囲む女の子たちの後ろを通らなければならなかったのだそうだ。
『またやってんなあ』見るともなく、皆が指を乗せる紙に目をやる。
そこには、他でも見た鳥居やはい・いいえ、50音などが書かれていたが、一つ違和感を感じたのは、中心の少し上に目が描かれており、その眼球の部分に何かの文字が書かれていたことだった。
目は、人間のものに見えたが、もしかすると動物のものかもしれない。とにかく、漫画表現でいう目が描き込まれていたのだ。それはほかでも見たことがないので、『そういうのがあるんだ』と思ったものの、以前ににべもなく対話を打ち切られているので、そのまま声もかけずに家に帰ったのだという。
興味が出たわけではないが、その後数日、図書館や書店でホラーやオカルト系の本で「目」の描いてあるこっくりさんについて調べたのだが、どこにも書いてはいなかった。だから、『ローカルルールのようなものなのかな』と思ったのだそうだ。
その週末、同じように女子たちの後ろを通って帰るときに何気なく目をやると、前回見たときとは別のところに目が描かれていた。
しばらくした放課後、用事を済ませて教室へ戻ってくると、いつもの女子4人がバタバタと帰り支度をしていた。その中で一番仲が良かった子に訪ねてみると、見回りに来た先生に「帰れ」と言われたのだと説明してくれた。
そのまま帰り支度をする流れで世間話になったので、直接こっくりさんというワードを出さずに聞いてみた。
「変わったことしているんだな。ローカルルールか?」
「え? 何のこと?」
ーーと話が続かなかった。聞きたかった「目」のことが伝わらなかったようだ。
家に帰っても、もやもやしていたが、家族に相談するわけにもいかず現在のようにインターネットもないので、解消の方法がない。
翌週の放課後、先日の先生からの注意にも懲りずにまた同じメンバー4人が集まってこっくりさんをやっている。まあ、先生が来たのはイレギュラーな事なので、当然かとは思ったが、『またやってる』との考えも脳裏をよぎる。
帰り支度を終えて、いつものように彼女たちの後ろを通るときにまた視野に入った。
「目」だ。
しかも、今度は紙のど真ん中に描いてある。先日は、冷たく突き放されたが、気になってしょうがないのでダメ元で聞いてみることにした。
「描いてある目玉みたいなのは意味があるの?」
4人の動きが止まる。リーダー格の女の子が口を開いた。
「えぇ!? 何、目玉って?」
最初は女子たちがふざけて言っているのかと思った。
『そう見える』というものではなく、他の文字が書いてあるペンと同じ色、太さではっきりと目が描いてあるからだ。
「それだって」と指そうとしたら、仲の良い女の子が
「あ、来た来た」
と声を上げ、コインが動き始める。いくつかの文字を経由して最後に目のところに止まった。
それを見て、異常に気持ち悪くなった。
だから、
「あぁ、ごめん。何でもない、何でもないから帰るわ」
とAさんは足早に帰宅の途についた。
家に着いたら、変に胸中がもやもやする。
以前から家族に話していたら、『今日こういうことが』と話せるのだが、何となく話しにくくて相談していない。
自室でぼんやりしていると、母親が声をかけてきた。
「ご飯の前に、お風呂入っちゃいなさい」
準備をして風呂場に入った頃から、熱が上がってきた。
母親に言うと、体温を測り、「大丈夫なの? 顔が真っ赤よ」と心配してくれた。
体調も悪いので、晩御飯もやめて「明日の朝に熱があったら、学校休む」と伝えて早めに床に就いた。
二階にある自室で寝ていると、フッと目が覚めた。
布団の中で汗まみれになっている。
枕元のタオルで体を拭いていると、「コンコンコンコン」とノックする音がした。時計を見ると、12時前だ。
ただ、まだ一階から親が見ているテレビの音がうっすらと聞こえている。
「コンコンコンコン」
この時は寝ぼけていたのもあって、自宅の玄関の扉を叩かれているのだと思っていたが、よく考えると、二階の自室まで音が届くはずがない。
ノックは、自分の部屋の扉にされているのだ。
「コンコンコンコン」
三度、ノックの音が部屋に響く。
「どうぞ」
と言ってから気が付いた。母か父かどちらだろうか。Aさんは一人っ子だ。そもそも心配して様子を見に来るとしてノックなどするだろうか。
扉が開かないので、耳を澄ます。
すると、一枚板を隔てた向こうで誰かがぶつぶつ言っている。
「どうぞ、って言ってるでしょ」
それでも、動きはない。体調的な事ではなく、心の問題で少し気持ちが悪い。扉を開ければよかったのだが、家族も入ってくるのに抵抗はないはず。だから、ぶつぶつ言う声に耳を澄ました。
声は、おそらくリーダー格の女の子の声だった。
最初に声をかけて、うるさいと言われた子だ。
扉を開けて、「お前何してんだ」「どうやって入ってきたんだここまで」という方法もあったが、何となくノブに手が伸びない。
ベッドから降りて、扉へ数歩進む。
すると、内容が何となく耳に入った。
「分かる人には、そういったはっきりとした形で分かるもんだけど、私たちは何でも分かると思っていたのに全然分からなかった。あぁ」
とにかく、「分かる」という言葉が多い。それと、ある程度の後悔が伴っているように感じられた。
何となく、Aさんには理解できたのものが、自分たちには分からなかったということらしい。そのときに、だんだん目も覚めてきて怖くなってきた。
『この子は、どうやって二階の自室の前まで来ているんだ』
部屋の真ん中で固まっていると、声の位置がどんどん低くなっていく。イメージとしては、扉の向こうでつぶやきながらゆっくりとしゃがんでいくような感じだ。
ちょうど、地べたに腰を下ろしただろう場所で声の移動が止まった。
しばらくして、「ガリガリ」と大きな音がした。
その時に気付いた。
この部屋に鍵はない。
入ってこられたら、対抗するすべがない。
ーー恐怖にかられたときに、声が止んだ。
「えっ!?」
普通の人なら、ここでもう一度耳を澄ませるのだろうが、勢いもあって、扉を開けてしまった。
うす暗い廊下には誰もいない。
1階からテレビの深夜放送の声が聞こえ、明かりが漏れている。
慌てて下に降りると、父母がこちらに目をやった。
「A、もう大丈夫なのか。熱は下がったようだな」
「うん。あの、誰も来てないよね」
「あたりまえだろ。何時だと思ってるんだ」
「そうだよね」
納得して、心を落ち着けたのちに自分の部屋の前に戻った。
声の移動を思い出して扉の前にしゃがんでみる。
すると、ちょうど子供がしゃがんだところぐらいにギザギザとした横線が一本引かれていた。
Aさんは、Kくんにここまでの経験を話してこう締めた。
「扉の線は、もう一本増えて、いびつなアルファベットのTの字になりました」
「つまり……」
「別の日にもうひとり来たんです。それでもう一本増えて。でも4人全員はきませんでした」
「それはーーよかったですね。4人来ていたら、鳥居が書かれていたのかもしれませんし」
結局何らかの対策を講じたのかどうかは聞けないままだったという。
「ですからね、かぁなっきさん。指摘してもよい場合と駄目な場合があって、それは分からないもんですね」
とKくんは最後に添えたそうだ。
結局「目」の正体が何かは分からずじまいだ。
〈了〉
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出典
禍話インフィニティ 第四十五夜(2024年5月25日配信)
46:00〜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/794344521
※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
ボランティア運営で無料の「禍話wiki」も大いに参考にさせていただいていま……
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