【禍話リライト】うしろをよぎる
いつも秀逸なウェルカム怪談のうち、ユニットバスにまつわる短い話を。
(ごめんなさいドントさんのリライトと重なってしまいました。そちらもぜひどうぞ)
【うしろをよぎる】
一人暮らし、となるとどうしてもバストイレはユニットバスになることが多い。
Aさんは「夜にトイレに行くのが怖い」と言う。
OLのAさんはもう20代も後半で、夜のトイレが怖いというような年齢ではない。
「怖いなら、電気を点ければ」
と返すと、「電気は点けたほうが怖い」と返ってきた。
聞くと、電気を点けて、自身の背後がはっきり見える方が怖いのだそうだ。ある晩、意味もなく怖いので扉を開けてトイレをしていた。Aさんの肩越しに、開いたトイレの扉から小さなキッチンの一角が見える。手を洗っていると、そこを黒い影が走り抜けた。もちろん、Aさんは独り暮らしだし、部屋もそれに見合った大きさで、余裕があるわけではない。だから、最初は見間違いだと思ったのだそうだ。Aさんは視力に自信があるのだが、数回続くとさすがに気味が悪いを通り越して怖くなってくる。影は、Aさんが手を洗うために少し屈んだ鏡の視界を、毎回右から左に駆け抜ける。
だから、トイレに行くときはドアを閉めるようにした。
これで一件落着かと思いきや、それでもよぎるという。どういうことかというと、扉を閉めて用を足して、手を洗っていると、鏡に映ったドアは少し開いていて、そこを影がよぎるのだという。思わず後ろを振り返ると、扉は最初からの通り閉まったままなのだ。つまり、扉が開いていようが開いていまいが、よぎるのだ。
『え~何で~!』
少し迷って、(残酷な話だが)Aさんはある週末、友人を自宅に泊めた。
いろいろ呑んで眠りにつく。夜中の2時、3時に友人が起き出して、トイレに行くのを見ていた。すると、首をかしげながら帰ってきた。詳細は聞かないものの、『怪異に遭っているのは、自分だけじゃないんだ』と安心したのだそうだ。
だから、結局真っ暗な中トイレに行って暗いまま手を洗って寝ているのだそうだ。
手探りで。
その方が、精神衛生上いいのだという。
やはり、夜中に起き出していくようなトイレの時には、よぎることなど忘れているのだそうだ。だから、解決策として物理的に見えなくすることを習慣化した。
友人に突然「今日泊まりにこないか」と問われたら、こういうことも疑ってみたほうが良いのではないかーーという話。
〈了〉
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出典
禍話フロムビヨンド 第17夜(2024年11月9日配信)
2:50〜
※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
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