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【禍話リライト】祠と地蔵のようなもの
過去の禍話であった話では、大きな敷地内の目立たない場所にある建築物は危険度が高いことが多い。
今回もそういう話だが、何かに魅入られないよう、あるいは、近しい人が魅入られたらどうするか。これが参考になるかもしれない。
【祠と地蔵のようなもの】
Aさんには、中学の時からずっと一緒のBさんがいた。大学まで同じ所に通う、いわゆる幼馴染だった。クラスは一緒だったり違ったりしたが、長い付き合いが続いていた。
大学は隣接県の大学で、互いに一人暮らしを余儀なくされた。二人とも長男ということもあって、少しいい学生マンションに暮らすことになった。Bさんのマンションの方が少しだけ古かったが、その分広さに余裕のある造りで、時々泊まりに行っていたという。
大学1年の夏のことだという。
その晩初めて、AさんはBさんのマンションに泊まりに行っていた。遊びには何度か来ていたが、泊まりは初めてだ。高校の時のようにご飯を食べて、ゲームをして、夜半過ぎにAさんはフローリングに延べた布団で、Bさんは同じ部屋の奥のベッドで眠りにつこうとした。
その晩、Aさんはなぜか寝付かれず、目をつぶったまま横になっていた。体感的には、Bはもう寝ただろうという程度の時間は経っている。
『寝付けないなぁ』
そんなことをぼんやりと思う。
電気は消して真っ暗だが、これは中学以来泊まるときには全く同じ状況だ。
「なぁ」
急にBさんが声をかけてきた。
「びっくりした。何?」
普段だったら寝ていたので、内心『俺が眠ってたらどうすんだ』と思いながら返事をしたらBが会話を続ける。
「ここ、いいマンションなんだけどさ」
「いいところだよな」
「でも、祠があってそれが怖いんだよ」
「え、ここに?」
「マンションの中に祠があるんだよね」
「知らなかった」
Bによると、遊びに来たり、配達しに来たりした人にはわからないような奥まった位置にあるのだという。
「お地蔵さんみたいなのが置いてあるんだけど、よく見たらお地蔵さんじゃないみたいなんだよな」
突然、怖いことを言いだした。
「どういうこと?」
「駐車場の奥に、狭い道があって、くるっとそこを抜けると奥に祠がある。そこに、何かが祀ってあるんだけど、一般的なお地蔵さんじゃないみたいなんだ。住民が、そこにお菓子や花、賽銭や飲み物なんかを供えている」
「説明ないの? 少し怖いな」
「無いんだよな」
「それは気持ち悪いけど、地域の信仰に関するものかもしれないし、わかんないよ」
「ああ」
そこで会話は途切れて、二人とも寝入った。
明け方に、Bさんが起き出した。Aさんは比較的そういうことに敏感で、つられて目が覚めてしまった。『トイレでも行くのかな』と思っていたら、奥のベッドからこちらに歩いてきて枕元に立ち止まった。
そして、足で肩を小突いて、「おい、おい」と声をかけてきた。
「ん? 何?」
「お参り」
「お参り?」
最初は意味が解らなかった。
「うん。お参り。お前も行く?」
「いや、行かない」
覚醒するにつれ、事態の異常さが飲み込めてきた。さっき話題にした祠に、こんな時間に行こうと言っているのだ。時計は4時過ぎを指している。夏とはいえ、外はまだ日が昇っていない。
しかし、Bはまだ粘った。強制、というほどではない。
「ねえ、行かない?」
「行かない」
「見ない?」
「見ない」
「そっかー」
そのまま、薄暗い室内をキッチンまで向かい、冷蔵庫からごそごそと何か取り出している。そういえば、昨日二人で買い出しに行った時、少し多いなと思っていたのだという。
ジュースか何かを取り出した気配がして、外へ出て行った。
戻ってきたのは、外が少し白みかけた30分後くらいだった。
マンション内のこと、広いと言ってもたかが知れている。敷地内と言っていたのに30分もかかるかとは思うものの、声には出さず寝たふりをした。
Aさんの横を歩くときに、少し歩行ペースをゆるめてこちらをうかがっていたようだったが、徹底して狸寝入りを通した。
朝になって、起きて二人でパンを食べると、Bさんは普通に送り出してくれた。
「じゃぁな~」
マンションの外に出てから、やはり気がかりになった。
「こっちかな」
敷地の出口とは逆、駐車場の奥の方へ向かうと、「管理人用」と記されていた。普通、外部の人はこの表示があれば奥にはいかないだろう。そこを、無視して進む。
すると壁があったが、人がわずかに通れるだけの隙間があった。
体を横にして進むと、細い通路の奥に小さなスペースと、祠があった。道路に面してはいないので、外からはわからない。祀られているものは、一見お地蔵さんに見えなくもないが、どことなく顔のあたりに違和感を感じる。石彫は石彫なのだが、一番の違いは毛が彫刻されていることだった。Aさんの記憶では地蔵に髪の毛はない。着ているものも違う気がする。
備えられているものに目をやると、多く並べられたお供え物の一番手前に見覚えのあるペットボトルがあった。夏の気温で少し汗をかいている。
「Bが冷蔵庫から持っていったやつだ」
手に取ると、Bの名前が書いてあった。
もう一つには、Aさんの名前も。
『知らない祠に名前を書いたものを供えられてしまった……』
少なからずショックを受けて、そのまま自分の名が書かれたペットボトルを持ってマンションの敷地を出て、離れた自販機の横のごみ箱に捨てた。
以来、長く付き合ってきて、幼馴染だとも親友だとも思っていた縁を切った。勝手に自分の名前を書いたものを備える人は友人として見られないということだ。
幸い、大学は同じだが、学部が違ったので、新しい環境の中、違う仲間との関係性を高めていって距離を取ったということだ。
その時の感想をAさんは「勝手に連帯保証人にされた気分だ」という。
ただ、祠そのものを見てしまったことを少し後悔して引きずっている。ただ、そのまま供え続けられてしまっても、どうなっていたかは分からないが。
〈了〉
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出典
禍話フロムビヨンド 第2夜(2024年7月6日配信)
18:50〜
※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
ボランティア運営で無料の「禍話wiki」も大いに参考にさせていただいています!
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