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第19夜 合わすな

 お盆なので、今週は怪談を。

 note上には上質な怪談がいくつもある。そう考えると、意外にnoteは怪談を発表、閲覧、検索に向いたツールなのかもしれない。

 さて、一昨日こんな怪談を見つけた。両方とも同じ久保多渓心(マーク・ケイ)さんの体験だそうだ。

 怪談を集めていると、「電柱の上に立つ何か」の話は時々聞く。上記の話のように、あからさまに死神のような恰好をしているものは聞いたことがないが(これとは別に死神らしきものを見た怪談というのは結構多く、その結果、近辺で人死にがあったというものも耳にする)、「黒い棒のようなもの」「灰色の影」「伸び縮みするもの」など多様だ。また、目撃時間も「夕方日が沈むころ」「丑三つ時」などがあり、場所も電柱の上だけでなく「ビルの上からこちらをうかがう多くの影」など高いところに群れるものを見たという怪談も聞いたことがある。これらもはっきり見えたら死神なのだろうか。

 電柱の上からではないが、上の方から視線を送るものの話を聞いたことがある。

【合わすな】

 第1夜で話を聞かせてくれたHさんが旦那さんの話をもう一つ聞かせてくれた。コロナが蔓延する少し前、外で自由にお酒を飲むことができたころの話。

 Hさんの旦那さんが、長年の友人Mさんと飲みに行くことになった。Mさんは、一時滋賀県を離れて東京で働いていたが、数年で戻ってきて家業を継いでいる。

 場所は二人の住まいの中間点ということで、とある地方都市を選んだ。そこは、秀吉が築城した城を中心に発展した城下町で新幹線の駅のある駅からも電車で10分と近い。湖北随一の都市だ。

 駅を出て旧市役所に向かって東に歩くと東西の通りから直角に延びる路地の中にいくつもの飲み屋が立ち並ぶエリアが現れる。2人で昔何度か行ったことのある串揚げ屋に向かおうと、路地へ足を踏み入れ、5メートルほど進んだところで隣を歩いていたMさんが一瞬視線を上げて、

「アカン」
と踵を返した。

 しかも、うつむき加減で速足だ。後を追うように元の大きな通りまで戻ったところで、「今日は別の店にしよ」と提案された。

 理由を聞くと、「後で話すわ」の一点張り。

 少し歩いて、チェーン店の居酒屋に入り、生中を二杯頼んでから再度事情を尋ねると、しばらく渋ったのち、「さっきの町屋の二階、窓から女がこちらを見ていたのに気が付いたか?」と問う。思い返すが、電気が点いているような家はなかったような気がすると答えると、「ちゃうわ、死人や死人」という。

 Hさんの旦那さんも比較的視る人だが、Mさんと同じような状況にあっても、視えるときもあれば視えない時もあるため、こうした状況は別段珍しいことではない。

「ああいう手合いはな、目が合うとずっとついてくるねん」

 そういって頭を振った。思い返すと少し雰囲気の暗い町屋があったような気がした。

「ずっとやで、ずっと。かなりしつこく付け回されたことがあるからな、気付いたら、すぐに離れることにしてるんや」

と汗をかいたジョッキを口に運んだ。

「気ぃつけや。絶対、視線合わせたらあかんからな」

 ずっと付きまとわれた話は聞きそびれたという。


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竹内宇瑠栖
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