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日輪を望む1―一貫斎魔鏡顛末
【月に届く鏡】
「佐平治様。お仕事終わりに大変申し訳ございませんが、お客様にお茶をお持ちいただけませんでしょうか」
井戸端で伊吹山にかかる傘雲を眺めながら、鉄砲鍛冶の職人たちと井戸端で汗をぬぐっていると、女中のトミがおずおずと声をかけてきた。今日の作業の話が盛り上がってきたところだ。
「鍍金師か?」
「左様でございます」
状況を察するに、昼八つ(午後二時)に来た鍍金屋がまだ帰ってないのだろう。この家の主、国友一貫斎を訪ねて鏡を磨いているのだが、その主が質問攻めにしているのか、はたまた仕事が終わっていないのか。
今回の鍍金師は、腕がいいと評判のものを呼んだ。つまり、一貫斎が捜している人物の要件を満たす可能性が高い。
「確かに、今日は来るのが少し遅れたからな」
そうつぶやくと、トミが「あちらに……」と指す。縁側に目をやると、盆の上に急須と茶碗が用意してあった。この女中は、齢十五を過ぎたばかりなのに気が利く。
「分かった。今日はもう上がってよいぞ、明日、またよろしく頼む」
ほっとした顔で、何度も礼を口にして風呂敷包みを手にした。もう、頭の中は今夜の献立でいっぱいなのだろう。昼にここ、国友屋敷に奉公に上がる一方で、病身の母と弟たちの面倒も見ているという。
門を出る姿を見送ると、後ろで、「自分で行きゃあいいのに」と槌打の職人・彦左衛門がつぶやいた。
「馬鹿野郎、鍛冶場は女人禁制だ」と咎めると、
「いけねえ、そうだった」と笑って大きなくしゃみをし「くそくらえ」とつぶやいた。災い除けのまじないだ。まだ若く、こうした気が廻らない点もあるが、仕事は実直で、銃の試し撃ちの際などは物怖じせず正確に銃を扱う点に好感が持てた。
(滋賀県文学際に投稿したものを改稿)
〈続く〉
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