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【禍話リライト】庭、祠、手

 神仏は大事にした方がよい。
 家族が大切にしているならなおさらだ。
 これは、そんな短い話。

【庭、祠、手】

 Aさんの実家は当時三世帯で住んでおり、庭には祠があった。何の神様を祀っていたのかは聞いていない。
 祖父母が早朝にその祠に手を合わせ、そうじなどのお世話をするのが日課だったという。二人の加齢とともに、その役割はAさんの両親に受け継がれたものの、祖父母のようにまだ夜が明ける前のような早朝にすることはなくなってきたのだという。
 例えば、4時だったものが5時になり、さらに遅く……といった感じだ。
 加えて、親たちも面倒くさくなったのか「夏休みなどは子どもたちにさせようか」ーー、そんな流れになってきて、Aさんも休みの日にはお参りをするようになった。
 手順は、お酒と水と、あと何か分からないものを順番に備えて手を合わせる、というものだったそうだ。しばらくして、祖父母は病院付きの老人ホームへ入ってしまい、家族の日課になってしまった。
 ある朝、いつものようにお参りをしようとしたAさんが祠の手前で転んでしまい、手を付いた拍子に中にお祀りしている神様をかたどったものが倒れてしまった。
「あ、まずい!」
と元に戻し、非礼を丁寧にわびた。
 そのままお参りを終えて家に戻り、裏口のドアノブを握ったら濡れた感触がする。疑問に思って手を見ると、血だらけになっていた。傷の位置は、転んだ拍子に祠に手を付いた場所だったという。いくつもの傷から、まるで刃物で切ったように血が流れていた。
 血液を見たせいか、急に痛みを感じて、「イタタタ!」と騒いだせいで家族も驚き、止血を試みたのだが、うまくいかなかったため近くの病院の緊急外来に運び込まれた。結局縫ってもらうことで止血は出来たのだが、その途中で気になった。これほど激しい出血だったのなら、祠にも血がついているのではないか、と。
 しかし、家に戻って確認すると、全く血は付いていなかったという。加えて、その手で戻したご神体にも、血は付いていなかった。手を付いた後に両手で持って直したにもかかわらず。
 もちろん、入院している祖父母には心配させまいと、このことは黙っておいたという。

 しばらくして、お見舞いがてら祖父母のいる老人ホームへ向かった。Aさんは手に包帯を巻いているので、聞かれたら答えようと思っていたのだが、あってみると祖父母とも同じ場所に包帯を巻いていたという。
 理由をただすと、昼に出た果物を剥こうとしてペティナイフで切ってしまったのだそうだ。高齢者向けの場所で、そんなに切れ味のよくないものを使っていたにもかかわらず。
 傷の程度も同じくらいだったという。
 祠は、大事にしないといけないという話。
                          〈了〉 
──────────
出典
禍話フロムビヨンド 第14夜(2024年10月12日配信)
11:50〜 

※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
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竹内宇瑠栖
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