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第25夜 笑い声

 音の怪は多い。心霊スポットを訪れた車の周りをお経の声だけが廻る、家の裏手で猫が人語で話す、ホテルの24階の窓を外から叩く音がする……。視覚よりも遮断しにくい感覚なので、継続すると恐怖が蓄積する。しかし時には、慶事を寿ぐこともあるようだ。

【笑い声】

 Fさんに、初めて子どもが生まれた。妻が出産のために入院する病院から親族に連絡を入れると、早速、父親と叔父が見に来た。

 妻と生まれたての我が子とともに病室で迎えると、二人と共に笑い声だけ入ってきた。もちろん二人とも笑顔だが、声を出しているわけではない。

 その時は、開いた扉の向こうの声が漏れ聞こえたのだとFさんは自分に言い聞かせた。

 続いてFさんのところは、二人目、三人目が生まれたが、その度ごとに見舞いに来る親族とともに笑い声が聞こえた。その音量は、少しずつ大きくなっていき、三人目ではうるさいと思うほどになったものの、身内だからか、自分や子供を寿いでいる、春のような暖かな感じがしたという。

 しかしその声は、Fさんだけでなく、ベッドに横臥する妻にも聞こえていた。一点違うのは、他人だからか冷たい、さらにいえば冬のような感じがすると教えてくれた。

 三人目のときには、「うるさいから帰ってもらって!」と怒り出した。別に騒いでなどおらず、意味が分からない親族は、後ろ髪ひかれる思いで病室を後にした。Fさんは「産後すぐで気が立っているので」と誤魔化したという。その声は、おそらく自分と妻にしか聞こえていなかっただろうとFさんは教えてくれた。


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竹内宇瑠栖
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