第21夜 エリート
何かの折に、夢で見た故人の話になった。
四十九日をすぎると、青っぽく見えるのだという。それよりも前には、生きた人間と見分けがつかない。私自身は見たことがないが、確かにそうした話は多い。
いや、死んだ人が会いに来るタイミングは、圧倒的に四十九日(かその翌日)に集中している(中には初七日というものもあるが)。そうした話は、両指に余るだろう。昔の人は、なぜこの法則に気が付いたのだろうか。仏教でいう七日ごとに裁きを7回受け、満中陰(四十九日)にあの世に行くということは、過去にも多くの例があったのだろうか。
この四十九日に関する話で、こんな話を聞いた。
【エリート】
今のようなコロナ禍になる前の話。お酒が好きなOL、Gさんが仕事後、外でお酒を飲んで家に帰ってきた。金曜の夜のことで少し飲み足りなかったが、空模様が怪しかったので続きを宅飲みにすることにしたのだ。
帰って準備をしていると、降り出した雨の中、友人のM美が訪ねてきた。週末に来客があるのは珍しいことではないので、「よう来たね」と歓迎し、テーブルをはさんで二人でグラスを傾けていた。
会話の途中、雨音に耳を澄ませていると、ふとある事に気づいた。
「あんたな、よう考えたら……この間、死んだん違うんか」
彼女の葬式へ参加したことを思い出したのだった。
「なんや、気づいてなかったん? 手を合わせに来てくれたから『ありがとう』と思って訪ねたのに」
友人はにっこり笑った。思わずテーブルの下を覗き込んだ。
「だってあんた、足あるやんか!」
と驚いたら、M美はいう。
「映画のスクリーンと一緒で、水蒸気が多い方が実体を見せやすいん。足は結構、意識を集中させんと出しにくいから、大変なんや」
目を白黒させていると、M美は自慢気に続けた。
「そやから、どんな時も足出せる幽霊は凄いエリートなんやよ」
次の瞬間、ベッドの上で目が覚めた。カーテンの隙間からは日が差し込んでいる。
変な夢見たな、と思って、テーブルに目を向けると、呑みさしのグラスが2個あった。
昨日が、M美の四十九日だった。