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第28夜 開かずの箱

 またまた「探偵ナイトスクープ」ネタかよと思われるかもしれないが、ご容赦願いたい。意外に怪しいネタの宝庫でもあるのだ。関西地方以外で「まだ放映されていないのにネタバレはご免だ」というかたは、下の【 】内だけ楽しんでいただけると幸いだ。

 2022年1月7日の「探偵ナイトスクープ!」で開けてはならないモノに関する奇妙な依頼が投稿され、解決された。

 依頼は、静岡県にある祖母の実家の屋根裏に「決して開けてはならない」ものがあること、依頼者の母も「開けると祟られる」と聞かされていたという。詳しい話を聞けないまま祖母が亡くなってしまい、今もその場所に箱があるのか、家が取り壊される前に調べたいという依頼だった。

 祖母の実家は、山の中にある。生きているころ祖母に「あれは決して触ってもいけないし、ましてや開けるなどしたらひどい罰があたる」「子供の頃うっかり触れてしまったことがあるが、その晩は悪夢にうなされた」「この家に代々伝わっている」ということだった。

 「開けてはいけない」という言葉から、依頼者は「箱」を連想していた。その家は、親戚が30年前まで居住していたが、今は住む人もなくただ朽ちるに任せていた。

 数年前、祖母の妹(この人はまだ存命で調査に立ち会っていた)が、様子を見に件の廃屋に向かったのだそうだが、扉を開けただけで冷たい風が中から吹いてきて、その晩酷い金縛りにあったのだという。

 潜入の結果、(間に仕込みの幽霊がいるなどの展開はあるものの)プロの解体業者の助けも得ながら、屋根裏に小さな俵のような藁の塊を見つけた。橋本探偵が「特急呪物」と表現していたような雰囲気のものだった。1メートル程のものの中を開けると、札や御幣のようなものがたくさん詰まっていた。

 歴史研究家の先生に画像を送ると、平安時代からはじまったもので「鼠と龍と猿は水の神様でそれに俵を備えるのは火除け、子孫繁栄になる」のだという。祟りというのは、願掛けしているため、勝手に開けるのは神様への不敬にあたるためという話だった。

 映像で克明に廃墟探索、呪物の解体を電波に乗せる(しかも地上波で)のは本当にどうかと思うが、新年一発目の放送としては、大いに興味をそそるものだった。結局、藁俵を開けたのは解体業者の方だったが、こういうことには慣れておられるのだろうか、全く躊躇していなかった。対策はされていたのだろうか。

 「触れてはならないものに触れる」「開けてはならないものを開ける」というのは、本当に禁忌に触れるもので避けるべきだ。その禁を破った話は、いくつか聞いたことがあるが、どの話も碌なことにならない。中には、親族縁者まで多数の死病者を出したというものもある。

 さて、いくつか聞いたことのあるこの類の話は、そのままここに載せることはできない。いくつか要素を抽出してアレンジしたものを以下に掲載したい。

【開かずの箱】

 Aさんの祖父は、毎朝神棚に手を合わせる人だった。朝起きて、手と顔と歯を洗い、食事の前に家の東側にあるその棚にろうそくをともし、般若心経やいくつかの祭文を唱える。

 そこに、小さな箱があった。

 大きさは卒業証書の筒くらい。直方体で麻ひもだか凧ひものようなもので縦横に何重にも巻かれていた。祖父は、これは「決して開けてはならないモノ」だと何度もAさんに伝えたのだという。

 Aさんが小学校高学年の頃、比較的若くして祖父はなくなった。四十九日の法要は、神棚のある部屋と隣接する仏間で行われたのだそうだが、そこでAさんはふと、神棚の箱はどうなったのだろうかと小さな脚立でのぞいてみたのだという。

 すると、そこには、ちょうどその箱が置いてあったスペースだけ開けて、何もなかった。祖母に伝えると、箱の存在は知ってはいたものの誰かが持って行ったことも(そもそもその部屋へ他人が入ることとは稀だったという)、渡したこともないのに無くなっていることが分かった。「不思議なこともあるものだねえ」ということで済まされた。

 Aさんは、小学生ながら次のようなイメージにとりつかれた。

 見知らぬ人が、祖母の家に深夜に裏口から侵入する。祖父が亡くなり祖母一人が眠る部屋の横を通り、迷うことなく神棚のその箱に手を伸ばしてそれだけを持ってそっと逃げていく、というものだ。

 もちろん何の根拠もないし、今となっては祖母がそもそもAさんに本当のことを話したのかも分からない。しかしAさんは、上記の想像が完全に自分の思い込みだという可能性を多分に指摘しながらも、

「しかし、力のある呪物は、こうして流通していくのではないかと思うのです」

と話を締めた。

                             〈了〉

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竹内宇瑠栖
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