【禍話リライト】あと何カーブ?
道具立てとしてのカーナビは結構古くから怪談に使われている。「声で道を示す」というのが、怖さに結び付きやすいのだろう。
これは、カーナビの話(【禍話リライト】カーナビはダメ!|竹内宇瑠栖 (note.com))から派生して取り上げられた話。
【あと何カーブ?】
現在30代のAさんが高校の時、兄とその友人Bさんの運転で山奥へ行くことがあったという。Bさんは山道の運転に慣れていないらしく、車中は「道、大丈夫かな」という空気になっていた。
助手席に同乗している兄がBさんに聞く。
「これ、目的地につながっているよね」
「大丈夫……だと思う」
「旧道に入っちゃったんじゃないの」
「ちょっと、分っかんない」
夜11時過ぎの山の中、車を道路に停めてカーナビで調べるも、画面上に道はまったく記されていない。古いカーナビなどそんなものだ。
「困ったなぁ」
ため息交じりのBさんに「地図とかないの?」と聞くものの、都合よくそんなものがあるわけがない。
所々で「〇〇まで□km」という標識のようなものもあるが、そこに書いてある〇〇という地名そのものが目的地の方角なのかどうなのかすら分からない。
今ならスマホを取り出すところだろうが、これは普及するずっと前の話。
「人でもいたら聞けるんだけど」
「人? こんな時間に?」
Bさんの言葉に兄が返した。
山中の道に、そんな都合よく人が居るとは思われない上、時間も時間だ。
「人なんかいないよ」
Aさんの兄の言葉を聞き流しながら、車を進めていると、カーブの曲がり角に人がいた。街灯などない山道のなか、車のヘッドライトに照らし出された形だ。
一瞬のことで、そこで車を停めず通り過ぎてから少し速度を落とした。
「人いたね」
「びっくりした」
「人形とかじゃ……ないよね」
「カカシとかじゃなくて歩いていたような」
車内の三人で言い合うものの、共通したのは皆「見た人が黒かったこと」だった。
「黒い服を着ていたのかも」
「ライトに照らし出された明かりの加減かもな」
そうは言うものの、戻ってその人に道を聞くことはせず、そのまま進むと、道が山の上の方まで来て、今度は下りはじめた。
「このまま降りていけば大きな道につながってそうだから、何とかなるんじゃない?」
目的地は、この山を越えた先なので一同にホッとした空気が流れた。
少し進むと、看板が出てきた。公のものではない。
そこには、
『あと5カーブ』
とあった。
「これ、山道によくある、通りに出るまでのやつじゃない!?」
兄が喜びを含んだ声を出す。
「数が少なすぎない? 絶対もっとかかるでしょ」
Bさんの指摘はもっともで、今までの道を考えると、とてもこの数では国道などの幹線道路には辿り着かない。そうでなければ、恐ろしい角度の道を行くことになる。
それでも、一本道の事、そこからくねくねとした山道を降りていく。
無意識に皆、心の中で「5、4、3、2……」とカウントダウンした。
1まで数えても、まだ先にカーブが見えた。
「なんだ」
思わずAさんが口に出した。その次のカーブを曲がるときに車のヘッドライトの中に、先ほどの黒い男が照らし出された。
スピードは落とさない。通り過ぎてから皆で、
「いやいやいや」
と口を合わせた。
「あいつまで5カーブってこと!」
思わずBさんが声を上げる。
そんな訳はないのだが、怖かったので、急いで幹線道路に出て、無事に目的地に着くことができた。
カーブに差し掛かる少し前から気付いていたので、一回目よりも相当気をつけて見ていたのだそうだが、まるで黒いストッキングをかぶったかのような、あるいは『名探偵コナン』に出てくる犯人のように、全身真っ黒だったそうである。
人形ではないし、普通に歩いて動いていた。1回目の人と同じかどうかは分からない。背は少し違ったかもしれない。
あたかも近所の人が歩いていたようだったが、周りに人家があるような場所でも時間でもない。
結局、あの黒い人は何だったのか。
山にはそういうものが出るそうである。
〈了〉
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出典
禍話インフィニティ 第六夜(2023年8月5日配信)
21:10〜
※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
下記も大いに参考にさせていただいています。
今週から加藤さんが管理をされるとのこと、大変だと思いますが、応援しています。また、管理を続けてくださったあるまさんに心からの感謝を。
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