第23夜 可愛い孫
怪談も浸透してきて、いろんなパターンがあることが周知されてきた。これに怪談を語る人の個性がかけ合わさって、動画配信やネット上はにぎやかだ。
この中に、人怖というジャンルがある。怪異の原因が、霊や超常現象ではなく、人の悪意や行動によるものだ。
そんな話を紹介したい。
【可愛い孫】
知り合いのOさんにある忘年会の最中に聞いた話。
Oさんは、15年ほど前、大都市のデパートでバイトをしていた。
隣の貴金属の店舗には、もうすぐ還暦に手が届きそうな女性がおり、そのフロアを束ねる役職についていた。二十歳からここに勤めているベテランなのだという。
ことに接客を中心とした指導は厳しいものだったが、それ以外の食事の時などは、顔色など体調にまでも気を使ってくれ、気さくに声をかけてくれるような人だった。
ある平日の午後、店内は閑散としていた。女性が近くまで来たので、Oさんが何気なく声をかけた。
「親子連ればかり目立ちますね」
「そうね。火曜の昼なんてこんなものよ」
「ほら、可愛くないですか。あの女の子」
今思えば、この言葉がスイッチだったという。
「私にも孫がいてね、キュートな娘なの。先週も……」
突然、相好を崩してその可愛さ力説する。まるで、自分の娘のように、目を細め、声も少し上ずらせて快活さや、成長ぶりを披露した。言葉が止まらない。Oさんは、普段の態度からの乖離に少し驚いたが、黙って相槌を打っていた。
以来、食堂などで出会うと、孫の成長ぶりを話してくるようになったという。
その年末、忘年会の終わりにOさんが直属の女性の上司と話をしていると、何かのはずみにフロアチーフについて、こんなことをいわれた。
「あの人と孫の話をしない方がいいわよ」
理由を問うと、最初はすこし渋っていたが、そのうちこう返ってきた。
「あの人、結婚もしていないし、子どももいないのに、孫なんているわけないじゃない」