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製造業のIT担当が知るべき製造業の2つの分類【製造業DXの道具箱 #2】

はじめに

製造業におけるITの役割は、現場の生産性向上や品質の安定といった企業競争力を高める重要な基盤を担っています。導入するシステムがきちんと現場に適合し、期待する効果を得るためにIT担当者は製造業の現場を深く理解することが求められます(第1回参照)。

連載第2回である今回は、製造業が大きく「ディスクリート製造業」と「プロセス製造業」という2つに分類できることと各々の特徴を説明します。

これらの分類を理解していないと、システム選定の際に適切なアプローチが取れず無駄なコストや時間を使ってしまう可能性や、システム適用のミスマッチによりシステム導入をしても期待する効果が得られない可能性が高まります。製造業のIT担当者の方は、これらの分類を理解した上でシステム選定・導入を効率的に推進し、DXやシステム化を成功させましょう。




1.「ディスクリート製造業」と「プロセス製造業」の特徴

ここでは先述した「ディスクリート製造業」と「プロセス製造業」の特徴を説明します 。

ディスクリート製造業は、個別の部品を組み立てて製品を作り上げる製造業を指します。例えば、自動車や家電製品、電子部品などが該当します。ディスクリート製造業の製品では、各部品は独立しており、その組み合わせによって最終製品が構成されるため、部品ごとの在庫管理や製品のトレーサビリティが非常に重要です。

プロセス製造業は、原材料を化学的または物理的に変化させて製品を作る製造業を指します。食料品や飲料、石油製品、鉄鋼などが典型的な例です。プロセス製造業の製品では、原材料が一度変換されると元の形に戻すことができない特性があるため、製造過程における各段階での化学成分の定量分析や物理的性質の測定(密度、粘度、融点など)といった品質管理が特に重要です。

表1に、それぞれの分類における代表的な特徴を整理しました。

表1:ディスクリート製造業とプロセス製造業の特徴

〇用語説明(ユニット:ここでは製品を製造する場合の「ユニット」を言い、半製品とほぼ同義。製造・加工工程は一部終わっている完成の製品。最終製品として完成してはいないが、中間製品として販売・貯蔵が可能なもの。※引用元:製造業|業界用語集(五十音順) | ソリューション | 大興電子通信株式会社)

💡Tips!:「製造」と「生産」の使い分け
業界や企業によって使われ方が異なる場合がありますが、本記事 では次の通りに使い分けをしています。

【製造】 製品を実際に生み出すプロセス全体を指し、具体的な物理的作業(例:加工、組立)を主に含みます。

【生産】 製造を含む広範な概念で、生産計画から資源管理、工程管理、品質管理、在庫管理、需要予測、コスト管理など、製品を効率的かつ経済的に市場に提供するための一連の管理活動を指します。

2.製造プロセスの特徴

ディスクリート製造業とプロセス製造業では、先述した通り物理的な製品の作り方に違いがありますが、製造プロセスの各ステップにおいてもそれぞれに特徴や、共通点があります。ここでは具体的にディスクリート製造業からは自動車製造、プロセス製造業からは鉄鋼製造の製造プロセスを取り上げて、特徴や共通点について説明します。

(1)自動車製造の製造プロセス(ディスクリート製造業の一例)

自動車製造業では、以下のような製造プロセスで製造が行われます(参考:トヨタバーチャル工場見学 | 企業情報 | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト)。

図1:自動車の製造プロセス
  1. 部品の供給と保管
    部品(例: タイヤ、電子部品、トランスミッションなど)など何千もの異なる部品が工場に届けられ、資材倉庫で保管されます。

  2. 製造1:プレス・溶接
    プレス工程で、鋼板やアルミニウム板が自動車のボディパーツ(ドア、フード、トランクなど)に整形されます。これらのパーツを溶接することで一体化し、車両のボディを形成します。

  3. 製造2:塗装・組立
    塗装工程では車両のボディに防錆処理と塗装が施されます。その後、組立工程でエンジン、トランスミッション、電子部品などが取り付けられ、最終的な組み立てが行われます。

  4. 検査
    組み立てが完了した車両は外観検査や機能検査を経て品質を確認します。

  5. 製品の保管と出荷
    最終的に完成した車両は製品置場で保管され、顧客や販売代理店に出荷されます。

(2)鉄鋼製造の製造プロセス(プロセス製造業の一例)

鉄鋼製造では、以下のような製造プロセスで製造が行われます(参考:鉄をつくる|調べて学ぶ|みんなの鉄学)。

図2:鉄鋼の製造プロセス
  1. 原材料の供給と保管
    原材料(例:石炭、鉄鉱石、石灰石など)が調達され、原料ヤード(石炭などを産地別に分けて保管する敷地)で保管されます。

  2. 製造1:鋼片の製造
    原材料を高温で溶かして鉄分を取り出し、さらに不純物を除去して鋼を作ります。これを板や柱の形に整えて切断することで鋼片を作ります。

  3. 製造2:鋼材の製造
    鋼片を機械で圧力をかけて押し延ばすことで狙った鋼材の形に加工します。

  4. 検査
    製造した鋼材は外観検査や機械試験を経て品質を確認します。

  5. 製品の保管と出荷
    最終的に完成した鋼材は製品置場で保管され、顧客に出荷されます。

〇用語説明(①鋼片:高温で溶けている鋼を柱や板の形に切断して得られたもの ※参考:連続鋳造設備と鋼片|鉄をつくる|調べて学ぶ|みんなの鉄学、②鋼材:「鋼材」とは、鉄鋼材料の総称のことである。建築や機械の材料としてそのまま用いることができるように、板、棒、管の形に加工されている。 ※引用元:【東建コーポレーション】鋼材|建築用語辞書)

(3)ディスクリート製造業とプロセス製造業の製造プロセスの特徴と共通点

以下の表にディスクリート製造業とプロセス製造業の各製造プロセスにおける特徴と共通点を整理しました。

表2:製造プロセスの特徴と共通点

ここで挙げた内容は、概ねこのような特徴や共通点があるということであり、業種や個別の企業によってはこれに当てはまらない場合もありますが、まずはこの表のように大きく特徴を捉えることで、ご自身が担当する製造業の現場への理解を進めていきましょう。

3.ITに期待される役割

製造業の各企業は、先述した各製造プロセスを品質良く効率的かつ安定的に運用できるように様々な手法で改善をしてきました。この手法の1つがITによる改善です。ここではディスクリート製造業やプロセス製造業の企業が抱える現在進行中の課題において、ITに期待される役割を説明します。

(1) ディスクリート製造業におけるITに期待される役割

  • リアルタイムの在庫管理
    ディスクリート製造業では、多種多様な部品や原材料を取り扱うため、在庫管理が非常に重要です。ITに期待される役割は、サプライチェーン全体でのリアルタイムでの在庫データ管理により、サプライチェーン全体の効率化及びリードタイムの短縮を図ることです。これにより、必要な部品や原材料の供給安定化と過剰在庫の防止が可能になり、コスト削減や生産性向上が可能となります。

  • 製造プロセスの効率化
    ディスクリート製造業の製造プロセスは複雑で、精密な加工や組み立てが必要です。ITに期待される役割は、ロボットやIoTセンサー、AI技術を活用して各工程を効率化し、品質向上を図ることです。例えば、ロボットによる自動組み立てやIoTセンサーによる機器の状態監視が挙げられます。これにより、製造の速度向上や人的ミスの削減が可能です。

(2) プロセス製造業におけるITに期待される役割

  • リアルタイムの工程監視
    プロセス製造業では、自動化された製造工程の安定的な運用が重要です。ITに期待される役割は、IoT技術やセンサーを利用して製造工程における温度、圧力、湿度などのデータをリアルタイムで収集・監視することです。例えば、センサーが温度の異常上昇を感知した場合、オペレーターに即座に通知され、速やかに対応が行えます。これにより、工程の安定性確保と品質向上が図れます。

  • 製造工程のプロセス制御
    プロセス製造業では、製造工程から収集したデータを活用したプロセス制御システムの運用が重要です。ITに期待される役割は、データの収集・解析により製造プロセスを最適化し、効率的な運用を支えることです。例えば、AIや機械学習を用いて異常検知やリアルタイムのアラートを実現します。これにより、製造の停止や不良品の発生を防ぎます。

(3) 両製造業で共通的にITに期待される役割

  • トレーサビリティの向上
    ディスクリート製造業、プロセス製造業の双方において部品や製品がどの工程を経てきたかを追跡可能にするトレーサビリティの向上は重要です。ITに期待する役割は、サプライチェーン全体でのデータ収集と管理、一元管理によるデータ統合、問題点の分析と可視化などです。これにより、問題発生時には迅速に製品の履歴を遡り、原因を特定し適切に対応できるようになります。

ディスクリート製造業とプロセス製造業のそれぞれの特徴に起因した課題やそこでITに期待される役割を知ることで、より製造業の現場への理解が深まるかと思います。
DXやシステム化をどこから手を付けていいかわからないという場合は、まずはここで紹介したような課題についてご自身の担当する製造業を当てはめて現状を評価することで進むべき方向性を明らかにし、DXやシステム化を効率的に進めましょう。

💡Tips!:ディスクリート製造業のアフターメンテナンス
ディスクリート製造業の場合、アフターメンテナンスを充実させることがとても重要です。

ディスクリート製造業の製品は、使用を続けることで摩耗や劣化が発生し、メンテナンスをしないといずれ壊れてしまいますが、部品の交換や修理を行うことで、長く使い続ける事ができるという特性があります。例えば、産業機械はメンテナンスをしながら30年以上使われる場合もあります(金属加工機など)。

これを支えるために販売情報(顧客、担当者、保有機械、保守契約など)、問合せ内容、メンテナンス履歴などのデータ管理を重要視しており、ここでもITが重要な役割を果たしています。

おわりに

製造業のIT担当者に求められるのは、現場に適合したシステムを導入し、その効果を最大限に引き出すスキルです。ディスクリート製造業とプロセス製造業の一般的な特徴を踏まえたうえで企業独自の特徴を理解することで、システム選定を効率的に行うことや、システム適用のミスマッチを避けることが可能です。
製造業のIT担当者の方は、現場の理解を深め、システム選定・導入を効率的に推進することで、DXやシステム化を成功させましょう。


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