僕らは素直に、貪欲に
5月15日 24時33分
大阪発東京行きの寝台列車で書き始める。今この瞬間の気持ちを、残したいが為である。
寝不足な朝だった。
急いで身支度をして、家を飛び出し、駅の途中のクリーニング屋に立ち寄った。ネクタイを受け取るためだった。
土曜の午前になぜなのか。
クリーニングは3人待ちで、店内をウロウロしながら待ちに待って、ついに渡されると同時に、わさっと掴んだネクタイはバトンのよう。駅まで残り数百メートルを疾走し、なんとかかんとか間に合って、大阪駅のコンビニで祝儀袋と筆ペンを買って、タクシーで書いた。名前は少し曲がった。
そんなこんなで、会場のホテルに到着すると、中高時代の見知った奴らが集まっていた。今日はそのうちの一人の結婚式だ。
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>もう若くはなくなったな。
揃うメンツこそ大差はない、10年前の俺らと今日の俺ら。順繰り巡りの結婚式で顔を合わす。その時間が流れるあいだ、僕らは多分いくらか偉くもなって、そして、きちんと年をとった。
>なんか変かもしれんけど、俺そういう変化が愛おしく思える時あるわ。
チャペルで前の席に座った仲間の一人と、隣に座った新婦側の友人女性の髪ツヤを見比べて、「全然ちゃうな」「なんかこっちは職人の手みたいとちゃうか」と言い合って、しばらく笑った。
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披露宴の酒は少しセーブしておくか。ほいで、同量のウーロン茶も一緒に飲んどこう。意気や良し。趣向を凝らされた料理と酒のマリアージュを前にしては、決意は簡単に翻り、何なら最後は少し寝た。
ここまでは新郎の大舞台。挨拶のひとつ、ひとつの響きも、十年前のそれとは違って、段々と身の丈に合ったものに感じられる。Mr.Childrenが式を通して伴走し、華を添える。
宴もたけなわ、披露宴も最後の方。その日に撮った動画も編集されて流れるムービーのところ、途中までテロップが表示されていたものが、Everythingの歌詞に接続される流れは「やっとんな」と思った。
披露宴が終わり、2次会前の空き時間。カフェにしけこむ。
披露宴前に、一度合わせた反省をもとに、再度調整を行う。ブツブツ言いながら、2次会の会場へ向かう。
会場。外の通路で再度合わせる。1回、2回。新しい流れの確認と、弱かったワードを、強く差し替える。いつも直前にひらめくワンワード。一台詞。
2次会は、他にもクイズやら、バンド演奏があって、そのバンド演奏は、このメンツの中で結成されたど素人バンド。今日は新郎がボーカルでマイクを握って、嫁に捧げる、SimpleとWherever You Are。それを見守る。
この時どんな気持ちだったかは、説明し難いけれど、嬉しいに近い感情だったと思う。テーブルを回って、飲みすぎてしまった新郎の声は少し掠れていて、そこに合わせて一緒に歌ってみる。
Wherever you are, I always make you smile.
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幸せな時間は過ぎて、3次会。歓談あっていざ勝負。最後に一度だけネタを合わせて、最終確認。結婚式の場を借りた漫才対決であった。
いつからか、このメンツの中で結婚式があるときの出し物のひとつがコレになった。ついに巡る表舞台。今回は3組がエントリー。
出番は2番目。
どうもカルチェラタンです、お願いします。
いつもと同じ入りから、ネタをお披露目。出だしのところから、ある程度スムーズに進んだあたりで、まだ足はカタカタ震えたが、それが声に出ることはない。あぁ足震えてるなと思うだけ。
ジェスチャーを加える時の相方の手も少し震えてるように見えたが、間のとり方や、過不足のない説明、テンポはまるで完璧で、無事にコトは進んで、最後にもうええわと締めた。
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結果はオマケみたいなもの。
もちろん、やる以上結果はきっちりつける。でもそんなことより、僕らはずっと逃げないで、前にやった時より、皆が皆うまくなった。
それが誇らしかった。僕らはたしかに年を取ったと思う、でも、遊びを忘れたことはない。
「どうしたら、あんなネタ書けるんや」
3次会後、ミナミにタクシーで移動する間にふと溢れる素直な言葉が胸を打つ。かっこええなと思う。
自分に出来ないことを近いところで見せてもらえる。自分のことでもあるのだけれど、それでもなんだか他人事みたいに「羨ましいな」と思った。
僕らは、素直に、貪欲に。
(以上)