東京は出稼ぎ感覚
「基本的に、東京は出稼ぎ感覚やわ」
前職時代、東京に対する印象について先輩がそう話した時、ちょっとそれは言い過ぎなんじゃなかろうかと訝った。
でも考えてみれば当然で、就職のタイミングで初めて上京した彼とは違い、大学時分から上京していた僕には、少なくとも、この時点で既に約十年ほどの東京暮らしがあった。
パッとした華こそなかったが、そこに堆積した時間には、それなりの思い出や思い入れもあり、過ごした街の2つや3つ、出来た人間関係の幾ばくか。つまりは東京に対して、多少は情緒的な繋がりを感じていたのだ。
だから、まぁ出稼ぎだなんてドライなことを、と。そう思った。自然な反応でもあったろう。翻って自問する、自分にとっては何なのか。
ひねり出した答えは「東京は戦う場所」であった。
結局のところ、約十年間を過ごした僕にとっても、東京は、心安らぐアットホーム感をくれる場所ではなく、むしろ「何かしらの結果」が求められる場所であり、それでよかった。
東京で戦って、田舎で休む。そういうものだと思っていた。
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先週の1週間、久しぶりに、岐阜の奥飛騨からえっちら山を降り、東京で過ごした。
東京に家を持たない僕は、基本的には短期的な仮住まいを転々とすることになる(*)のだが、いつものルーティーンで夜も20時を過ぎたあたり、Bookingで調べたホテルは、ちょっとびっくりするぐらいに安かった。
今はこんなことになってんのかと驚いて、嬉しさ半分、心配半分。どうしたもんやら迷った挙げ句、これまであんまり泊まったことないホテルに泊まっちゃおう、の機運が高まった。
これがホテル生活ってやつね
ビジネス出張にさほど縁のなかった僕にとって、宿泊施設と言えば、宿のことであり、宿のことと言えば、旅のことだった。
つまるところ「宿泊施設」≒「旅の宿」≒「ゲストハウス」だった。旅情はローカルに籠もる。
※注記
ゲストハウスとは「ホテル・旅館」とは異なり「簡易宿所」のカテゴリーに属する宿泊施設のこと。
特徴としては、水回りのトイレ・シャワーやキッチン等が、個室内ではなく施設内の共有スペースに含められがちな他、ラウンジのようなゲスト同士の交流が出来る場が設けられていることが多いこと。また、個室を複数人のゲストで共有するドミトリー(相部屋)タイプの居室などもある。
基本的に廉価で、旅人を含むカジュアルな宿泊者に人気。
そんなゲストハウスの気軽さやフレンドリーさ、そしてお財布への優しさに慣れていると、ホテルのサービスが随分と新鮮に感じる。運営側もゲストと気さくに交流するのではなく、基本的には引きの一手で、さりげなく演出する快適さに隠すタイプのホスピタリティで魅せる。
「ちなみにこのお部屋は普段おいくらで出されているんですか?」
不躾に尋ねると、今は経営判断でこの金額ですが、普段は一万円程度に設定させて頂いておりますとのことだった。それが三千円ちょっと。安いなぁ。
一泊して味をしめた。こいつはよく出来ている。なんだか日中に出歩いて、最後の「家に帰って寝る」部分が、スムーズに、清潔に、快適に実行できる感じ。これがホテル生活ってやつか。
以後、毎日宿を替えてみる。前述の通り、これまで興味はあったけど、高いかなーと感じて行ってなかったホテルなども試してみることにした。いずれも快適なホテル生活(**)を過ごして、約一週間。
終わりを明確に決めてたわけじゃなかったけど、気持ちは帰り支度に向かった。そろそろ帰ろっか、と。
東京体力
正直に言うと、友人に誘われたBBQ(最終的には悪天候でホームパーチー)が今回の上京の主たる理由でありました。なかなか外で飲めないよね、と。
てなわけで、せっかく来た、にかこつける日々。月極契約してるけどあまり足を運べてないコワーキングスペースだとか、基本的にはリモートでお仕事をさせて貰っている取引先だとか、はたまた、タイミングよく捕まった奇特な友人だとか、ある程度興味や必要のあるところに、ちょろちょろと顔を出したら「もういいかな」と感じた。
ああ、そうか。
東京に留まるには体力がいる。そして、その体力が落ちてきている。プラスその体力を回復させてくれる、情緒的な楔(くさび)も薄れてきているのだなと思った。
東京は変わらず好きな街。思い出や思い入れもある。東京が持ってる機能もメチャ強いと思う。何がどうすごいのだろうか。今ぱっと思いつくところで例えば「人・モノ・金・情報」に接する機会や、そのクオリティだろうか。やはり東京には魅力が、重心がある。そんな気がする。いいところである。
ただそこに居続けるには、体力がいるのだ。
学校には通ってないし、東京に根を下ろした仕事はもうしていない。今の僕には、ここにいる必然性がない。
東京は、戦う場所。
そこでは「何かしらの結果」を出すことが求められて、東京で過ごす快適さは、その「何かしらの結果」との取引の一部であった。目的や必要のない、いわば不要不急の人間は、ここに長居する理由がなくなってしまう。
いつもなら、旅の風情をお供に、ゲストハウスに複数日程で泊まるとこを、シティホテルやビジネスホテル中心に転々と過ごしたのも影響したろうか。やることをやったら帰りたくなった。
誰かが話した言葉に、数年遅れて追いつくマイライフ。これが出稼ぎ感覚ってやつか。
(以上)
補遺
(*) 参考: 家なき物書き
(**) 今回泊まったホテルは、「Best Western hotel Fino」「The knot Tokyo Shinjuku」「DDD hotel」「The b hotels」「変なホテル」等。
ゲストハウスで言えば、今回初めてお邪魔した「World Travelers Hostel Ueno」はオススメ。深夜に隣部屋から生配信の歌声(コレサワとか)が聞こえたけれど。
よくぞここに辿り着き、最後までお読み下さいました。 またどこかでお目にかかれますように。