トナカイいらず
サンタ「いやぁ、効率がいい、効率が。こんな簡単なんやったら、もっと前からやってたら良かったなぁ」
(トナカイ、カリカリと床をヒヅメ的なものでかく)
サンタ「災い転じて何とやら。ほら、また行った。これは圧倒的や。これはトナカイいらず!ワシはサンタ界のエリートやなー。ヨーホッホ~!」
トナカイ「いやいやいや。ヨーホッホちゃうがな。さっきから黙って聞いてたら何やお前は。サンタがこんな大事な日に家でサボってたらあかんがな。子どもたちが待ってるんやど」
サンタ「おや、トナカイ。お前にはどうやらまだ状況が飲み込めてないようやな。お前はクビや。」
トナカイ「誰がクビやねん。ごちゃごちゃ言うてないではよ行こうぜ。」
サンタ「どうどう。お前はあれやな、古いな。古いっていうか、昔ながら。昔ながらのトナカイやな。まだ鼻も赤いんちゃうか。道明るいのに。」
トナカイ「なんじゃお前、トナカイなめてんのか」
サンタ「仕方ない。野暮やけど説明したろ。コロナやがな、コロナ。今はもうオッサンが人の家に忍び込んで、不審物置いて帰っても、『やったー!』って受け入れて貰えるご時世とちゃうんや」
トナカイ「それは前からちゃうやろ。でもそれはお前、色々あってアリになったやないか。親側と事前に握っといたらOKみたいな。その根回しあっての不法侵入であって、それだけの手間暇かけてやってきたんや。それを、やれコロナやから言うてやめてみ?悲しむのは子どもたちやぞ。」
サンタ「まだわからんか、トナカイ。サンタっていう信頼商売でやな、どんなに根回しをしたとて、実際、人様の密空間に出入りして、考えたくもないけどクラスターなんか起こしてみ?それこそサンタ生命の終わりやないか。だからもうサンタ界ではな、『トナカイいらず』っていうのが流行りだしてんのよ」
トナカイ「いや、ありえへんな。子どもたちにプレゼント届けるためには、トナカイは必須よ。他で言うたかって、ええのおらんからな。牛は遅いし、犬は甘えたやし、鳥は何考えてるかわからへん。そこへきて、ちょうどええのがトナカイってことでやらせてもうてます!」
サンタ「それが全部いらんのや。これからの時代はオンラインサンタ言うてな。世界中のどこでも一瞬で届けられるのよ。もうあんな雪の中をシャンシャンやってられへんで。なにせすごい効率やからな。正直、もう骨抜きよ。こうやって喋りながらでも送れるもん。ヨーホッホ言うて。」
トナカイ「お前は、全然わかってへん」
サンタ「何がや」
トナカイ「確かに100歩譲って、そのオンラインなんたらの方が、効率はええんかもわからん。ただな、全く情緒がないやないか。子どもたちが聞きたいのは、メールの着信音やのおて、ワシのヒヅメの音じゃい!」
サンタ「お前、急にクビんなったからって、今まで思ってもなかったことを言い出すなよ。お前のヒヅメよりも、ワシのシャンシャンの方が音デカかったやないか。第一、子供たちも寝てる約束になっています!」
トナカイ「でもそんなんしたらオレ、ほんまに仕事なくなるがな」
サンタ「お前には悪いけど、これが現実や。でもな、お前だけとちゃうぞ。このコロナ禍で急に環境変わって、仕事なくなってツラいのはお前だけとちゃうからな!このオフライントナカイめ!」
トナカイ「誰がオフライントナカイじゃ。くそー、自分に正義があると分かった時の人間は怖いなぁ…。」
サンタ「よしよし。やっと状況が飲み込めたようやな。まぁすぐにクビっていうのもあれやから、君はそこでその得意のヒヅメでも、鳴らしてなさい。持続化給付金でしばらく養ったるがな。ほら、そうしてる間にも、メリークリスマース。また贈ったったわ。オンラインサンタは最高やなー!」
トナカイ「鬱陶しいサンタやで。ほいでさっきから何をあちこち贈っとんねや。」
サンタ「何って、これはメールに添付できるタイプのプレゼントやないか。トロイの木馬っちゅうやつや」
トナカイ「ウイルスやないか! もうええわ!」
というネタを考えたが、ボツになった。先日のことである。
(以上)