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意外と知られていない? 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が抱える闇
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が大好きだ!
まず、大前提として、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が大好きだ。子供の頃は、金曜、土曜、日曜と週末の夜に必ず映画が放送されていて、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(以後BTTF)はその常連だった。
<マーティ> マイケル・J・フォックス(三ツ矢雄二)
<ドク> クリストファー・ロイド(穂積隆信)
<ロレイン> リー・トンプソン(高島雅羅)
<ジョージ> クリスピン・グローバー(古川登志夫)
<ビフ> トーマス・F・ウィルソン(玄田哲章)
この吹替版をVHSテープに録画して繰り返し繰り返し観た。そのせいで、マイケル・J・フォックスは英語ではなく、三ツ矢雄二の声で喋るのがデフォルトだと思ってるくらいこの吹替版のBTTFが好きだ。
そして今週の金曜ロードショーは、第1作の公開から40年ということで、新吹替版が放送される。
<マーティ> マイケル・J・フォックス(宮野真守)
<ドク> クリストファー・ロイド(山寺宏一)
<ロレイン> リー・トンプソン(沢城みゆき)
<ジョージ> クリスピン・グローバー(森川智之)
<ビフ> トーマス・F・ウィルソン(三宅健太)
これはこれで、録画必須の魅力的なキャスティングだ。宮野真守のマーティなんて、絶対ピッタリじゃないか。
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大人になって気づくのBTTFの闇
小中高校生の頃までは、無邪気に楽しんでいたBTTFだが、30もとっくに過ぎたおっさんになると、気づかないようにしていたある闇が、どうにも看過できなくなってくる。米国の近現代史を学び、ロバート・ゼメキス監督の他作品の傾向を知ると特にだ。
実際、BTTFは差別的な映画だと叩かれている。
問題のシーンがこれだ。
マーティが、チャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」を弾き始め、それを聴いたバンドのギタリストが、慌てて従兄弟に電話する。
「新しいサウンドを探してるって言ったな!
ちょっと、コレ聴いてみな!」
ロックンロールは黒人音楽から生まれた音楽だが、BTTFは白人のマーティが黒人のチャック・ベリーにロックンロールを教えた形になっている。これが、黒人の功績の横取りだと叩かれたのだ。当のロバート・ゼメキス監督は、ただのジョークなのに何故叩かれるのか分からないと不満げだったらしい。
ちなみに、実際のチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」はこちら。
50年代よ、もう一度
そもそもBTTFは、50年代の古き良きアメリカの勢いよもう一度!強い白人パパ、家父長制よもう一度!メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン!な映画だ。そう考えるとしっくりくる描写や展開がいくつもある。
米国の60〜70年代は、白人にとって鬱々とした時代だった。黒人の解放と地位向上を目的とした公民権運動、ベトナム戦争、ウォーターゲート事件、そうこうしてるうちに、市場はメイド・イン・ジャパンが溢れ、アメ車は日本車に押され売れなくなり、土地も会社も買収され、マーティーが欲しがっているのはTOYOTAの4WD。マーティの父親、ジョージ・マクフライさながらのしょぼくれ加減だ。
そんなアメリカで、1981年に当選したのが、ロナルド・レーガン大統領。スローガンは、
Let's Make America Great Again!
80年代に復活した強いアメリカの象徴である。マーティは1955年に戻り、60年代と、70年代をすっ飛ばして、強い父親を取り戻したのだ。
BTTFシリーズは、黒人や日本人を、白人文化の破壊者として描いている。時計台を取り壊そうとしているのもの黒人市長のゴールディだし、マーティは2015年には日系企業に勤めていてクビにされる。娯楽に政治を持ち込むなという人がいるが、そもそも監督が政治的だし、そういうイデオロギーのオーナーなので仕方がない。実際、『フォレスト・ガンプ』でも、キング牧師の存在を描かなかったり、ベトナム反戦運動を否定するような描写を入れている。
と、ここで
マーティがタイムスリップした日付を見ていて、気づいたことがある。正直ちょっと背筋がゾワッとした。
タイムスリップした日付は、何故1955年11月5日だったのか?
マーティは1985年から、暗澹たる60年代、70年代をすっ飛ばし、米国白人がブイブイいわしていた1955年にタイムスリップした。日付は、
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1955年11月5日
劇中の設定では、ドクがトイレで滑って転んでタイムトラベルを思いついた日だ。それはいいとして、何故ロバート・ゼメキスは1955年の11月を選んだのだろう。公民権運動が始まるのは1956年だ。そこで、
黒人の解放と地位向上を目的とした公民権運動の発端であるモンゴメリー・バス・ボイコット事件を調べてみた。
モンゴメリー・バス・ボイコット事件
アメリカ合衆国アラバマ州モンゴメリーで発生した事件。
人種差別が色濃かったこの当時、バスの席は有色人種と白人で区別されていた。市営バスに乗車したローザ・パークスは「黒人優先席」の最前列に座っていた。次第に乗車して来る白人が増えてきたため、運転手は、黒人席の最前列を白人席に変更し、座っていた4人の黒人に席を空けるように指示した。しかし、パークスはこれに従わなかった。運転手はアラバマ州警察に通報し、パークスは、「運転手の座席指定に従わなかった」という理由で逮捕された。これをきっかけに、バス乗車ボイコット運動が呼びかけられ、肌の色を問わず多くの市民がこれに応じた。特にバス利用者の約4分の3を占めていた黒人が一斉に利用しなくなったことにより、市のバス事業は経済的に大きな打撃を被った。
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事件が起こったのは、
1955年12月1日
マーティがタイムスリップした約1ヶ月後。逆にいえば、黒人であるローザ・パークスが、自らの権利を主張する1ヶ月前にタイムスリップしている。公民権運動が始まる直前に全てを塗りかえるシナリオだ。
狙ってやっているのか、それともたまたまなのか…
マーティは1作目だけでは成長しない
強い白人パパ、家父長制よ、もう一度!という意味では、この作品で腑に落ちる点がもう一つある。映画は誰かしらの成長が描かれることが多いが、第1作の時点でマーティは全く成長していない。成長したのは、ヘロヘロ根性だったのが、ビフを一発ノックアウトして、ロレインにキスをし、SF小説も売れて万々歳のジョージ・マクフライ。マーティの父親だ。
1作目がヒットして、2と3の製作が決定したので、1作目の時点では主人公であるマーティの成長を描くことはそもそも念頭になかったのではないか。その後、2、3と進んでようやくマーティ自身の性格が描かれる。腰抜け=チキンと呼ばれてカッとなるのは、2以降の設定だ。
基本的にマーティは、狂言回し的立ち位置でBTTF3部作の時間軸を過去から未来に行ったり来たりしている。人間的に成長するのは父親だったり、ドクだ。彼が成長するのは、物語の最後の最後である3のラスト。カッとしやすく挑発に乗りやすい性格を克服して、自分の未来を切り開く。
BTTFは、2、3あってこその作品なのだ。
清濁合わせ飲んでファンをやる
こういう話をすると、水を差すな、野暮、めんどくさい、嫌なら見るな的な批判がガンガン飛んでくる。人気作なので尚更だ。
「こっちは楽しんでるのにシンドイこと言うな」ではなく、シンドイけどそういう事実を含めて許容して、問題の部分は問題って意識しようって話をしているのだ。実際、映画は政治と近代史を知れば知るほど面白くなる。あのMCUだって、すこぶる政治的だ。
だが、なんやかんや言うてもそれでもBTTFシリーズが好きだ。三ツ矢雄二吹替版のブルーレイBOX買っちゃうくらい好きだし、
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子供たちと何遍も見返すし、近所にデロリアンの実物が来たと聞けば、子連れで乗りに行くくらい好きだ。
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そもそも、映画好きの世界に引きずり込んでくれたのがこの作品なのだ。
娯楽に政治を持ち込むなという観客もいるが、そもそもその作り手が政治的メッセージを入れている場合はかなり多い。むしろ映画には政治が盛り込まれがちというか、見れば見るほど時の情勢を感じざるを得なくなる。
先日、BTTF2のビフのモデルであるドナルド・トランプが、レーガンが唱えた「メイク アメリカ グレイト アゲイン」を丸っとパクって再び大統領となった。現実は限りなくBTTF2の再現となった。まさかまたこの時間軸に戻ってくるとは…
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映画と政治を表裏一体とするならば、この先に待っているのは、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の地獄なのだろうか。そうならないことを、祈りたい。
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それでは、読んでいただき、ありがとうございました。
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※参考文献
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