三角測量のすすめ
ずっと外資系で生きてきて、40過ぎて起業して、突然、大手の日本企業とお仕事をさせていただくことが増えてきた私。
いまさらながら多くの人にとっては「あったりまえ」というようなことで、驚いたり発見したりする日々である。
なんどかこのBlogでも告白しているが、研修講師の仕事の中でも新卒研修にデフォルトで盛り込まれている「ビジネス・マナー(特に服装)」を自分が受け持つことには、当初、かなりの違和感があった。
Appleのアイコン・Steve Jobsは、常にジーンズと黒のタートルネックだった。Googleの社是には「スーツがなくても真剣に仕事はできる」というものがあった。
シリコンバレーでは、むしろ、スーツを着ないことがドレス・コードのようなもので、東京オフィスでも、日本企業の人が見たら目を剥くような格好の老若男女が闊歩していた。
それがイイと言うわけではないが、私自身もたいがいな格好で許されてきた。営業だった時期もあるが、スーツを着れば良いでしょとコスプレ気分で楽しんでいたので、自分が教える立場になるまで、その意味や定義について、考えたこともなかった。
振り返れば、網タイツに原色のインナー、派手な鞄を持っていてもかっちりしたスーツならという完全な自己流で、客観的には多分OUTだったのだが、担当していた顧客が、これまたファッションに緩いアカデミアだったため、誰からも文句を言われることなく(うわぁ、とは思われていたかもしれないが)若手時代を駆け抜けてしまった。
従って、長らく日本企業流の「マナー」は彼岸の窮屈としか思っていなかったのだが、講師として新人さんたちに教えるからには「いや、自分はぶっちゃけどうでもいいと思っている」とは言えない。
こっそりと、どうしたものか、この仕事を受け続けるべきかと悩み続けていたのだが、去年、思わぬところで、わたしはその神髄に開眼した!
それは、対人支援の仕事をしながら、心理の勉強を深める中で得た気づきだった。某メンターの先生(公認心理士)に「私はセラピールームに出るときは基本的に同じ服を着る。髪型もいつも同じ。」と教えられたのだ。
私も、個人カウンセリングをする場合には、刺激の強い色や余計な香りを排除することを心掛けていたが、そこまでか!!!と、驚いた。エネルギー量が低くなっている人と向かい合うベテランのカウンセラーとは、なるほど、安心空間をつくるために、そこまで気を遣うのである。
そこではじめて、やたら同質化を求める日本の(殊、服装に関しての)マナーの「目的」が分かった。
それは、相手に心を開いてもらい商談を進めるという場で、無用な刺激を排除することなのである。TPOをわきまえるということは、究極的には他者への思いやりである。
しつこいけど、普通の人からしたらなにをいまさら、常識の極み!みたいなことで、ほんとうにすみません。
肚落ちしたら、自分がそれをどう考えているかということも否定せず、どういう文脈で必要性を伝えればよいかが分かった。
実際、マナーの基本を知ることは大切だ。自分が働いていく社会の中で何がどうみられるという型を知って再現できることは、間違いなく「得」なのだ。
わたしは人の心理の勉強を通して、いわば、三角測量に必要な第三のポイントを得た。(1つ目:外資系での自分の経験、2つ目:教師プロシジャーを通して学んだ日本のハウツー・・・その二つは全く違うものであったのだ!)
それで、自分のちょっと(かなり?)変な失敗・体験エピソードも、本質に即していかに伝えればよいかが明確になり、ずいぶん楽になった。
なににせよ、環境に求められていることがどうにも好きになれない、自分の視点と相容れぬという「壁」に直面している方には、このように「第三の視点」を探すことをお勧めしたい。その発見により、対象との距離の取り方が分かり、分かってしまえば、手軽に扱えるようになることもある。
そんな小話でした。