四角い穴の中の丸い杭 - パーソンズ
20年以上生きてると誰でも、あのときのあの言葉に影響を受けてきたんだよね、というもの一つや二つがあると思います。タイミング良く出会い、心の深いところに届いた言葉。私の場合、その一つが
”真実を望み、そこに届かなくても希求し続ける”
というような趣旨の言葉で、記憶ではそれはAppleの1998年のThink DifferentのCMに登場するマーサ・グレアムの言葉でした。
職業意識希薄なままに社会人になって、変な浮遊感のなかにあったから気に入ったのかもしれません。そこに自分の名前の「真」と「希」が入っていたから印象に残っただけかも。
最近その言葉を久しぶりに思い出し、正確な裏をとってここに書こうと思ったのですが、押し入れの奥にしまいこんでいたApple Computer Inc. 謹製のその白黒の冊子は、なんと英語なうえに、言葉の内容も覚えていたものとだいぶ違うものでした…(表題写真)
サッと検索してもそれらしい言葉は出てきません。ストイックな天才のマーサ・グレアムが言いそうな感じではあるけれど、私は誰の言葉をどこで拾って、20年近くも大事に抱えていたのだろうか?
…という、自分のおそるべき記憶力劣化(あるいはもとからの欠陥)に気づいてしまった、夏の怪談はさておき!
別の見方をすると、Googleは何でも知っているわけじゃないんですよね。インターネットに刻まれていない素晴らしい言葉や歌はたくさんあったのです。
Think DifferentのCMのイントロは、こうです;
Here's to the crazy ones. The misfits, The rebels. The troublemakers. The round pegs in the square holes. The ones who see things differently
クレージーな人たちがいる。反逆者、厄介者、問題児、四角い穴のなかの丸い杭。物事をまるで違う目で見る人たち。
おお!四角い穴に丸い杭!?
キャリコンならだれても知っている職業指導運動のレジェンド、パーソンズ先生のコンセプトは「丸い穴には丸い釘」…それをいきなり否定!!!
だから、”Think Different” キャンペーンだったんですけどね。
今日は、そのパーソンズの理論を紹介します。
Frank Persons (1854-1908)
マサチューセッツ州ボストンに職業指導局を立ち上げ、産業革命による社会の変化を時代背景に、高い離職率や劣悪な雇用関係に起因する社会不安のなかでもがく若者たちに対して職探しの支援を始めました。
死後、その研究をまとめた書籍が「職業の選択(Choosing A Vocation)」として刊行され、そのなかで掲げられた「特性因子論(Trait and Factor Theory)」のコンセプトが「丸い穴には丸い釘」…職業と人のマッチング、適材適所が大事だよ、という論旨だったのです。
ちなみに「丸い穴に四角い杭(Square peg in a round hole)」というのは、英語の諺でもあるようです。”Think Different”はパーソンズをディスってるわけではなく、単に、その前の、厄介者、反逆者、問題児、とかと並べて、社会不適合者、くらいなノリですね。
日本語訳としては「クレージーな人たちがいる。反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。四角い穴に丸い杭を打ち込むように、物事をまるで違う目で見る人たち。」…と、詩的につなぎ変えられて出回っているので、ちゃんと調べなければ、見紛うところでした。
そして、原文においては、クレイジーなのは杭を打つ人ではなくて、杭そのもの。杭が人で、穴が社会に用意されたポジション。Round とSquareがさりげなく諺と逆になっているのは、なんでしょうか、釘が四角だと丸い穴を傷つけるイメージしかないし、四角の中の丸っていうほうが、枠にはまらないよという自由な声明になるからかな?
改めて振り返る、昔お世話になったAppleの理念は、実に行儀のよい企業の常識とは真っ向から対立するものだったなあと思います。
そんなの絶対試験には出ないでしょうけど…。
どなたさまも、ハッピーなライフ・キャリアを!