転機は鬼の顔をして - ブリッジス
わたしの故郷の岡山県出身の、ホラー・ジャパネスクの語り手、岩井志麻子氏が某作品のイントロで「転機は鬼の顔をしてくる」と書いていた。
その怖い本を手に取らなきゃよかったと後悔しながらも最後まで読んだのはだいぶ前のことなので内容は忘れてしまった。けど、その一言だけは覚えている。真実かもしれないなあと思ったのだ。
現在勉強中のキャリア理論のなかでも、人生の転機というのは、いろんな学者が主題として扱うホットなテーマである。
誰もが避けて通れない転機(Transition)について、アメリカの人材系コンサルタントのブリッジス(W. Bridges)氏は、それは以下の3段階のステップを踏む。と論じた。
・第1段階…何かが終わるとき
・第2段階…中立圏(ニュートラルゾーン)
・第3段階…何かが始まるとき
ここでいう転機(Transition)とは内的な自己変容のことであり、状況的事象を示す変化(Change)とは明確に区別されてる。
何かが終わるときというのは決して居心地がいいものではないが、続く中立圏で葛藤や苦悩と向き合い、創造力を発揮して自己変容を遂げ、可能性の道を拓くことにこそ人生の本質が顕われる、と。
岩井氏が「鬼の顔をしてやってくる」と書き出した話は、主人公がニュートラルゾーンをしくじって昏い方に堕ちていくホラーだったような気がしなくもないけれど、コンサルタントらしくそのポジティブな側面に着目するとそういう説明になるよね、と、肚落ちした。
いかにも人事コンサルタントなブリッジス氏
そしてここから、私事ながら、
ただいま、1歳1か月のあーちゃん、鬼の転機と戦っている。
昨夜から卒乳の儀にはいったのだ。夜寝る前におっぱいを飲むという習慣を断ち切り、哺乳瓶のミルクを飲んで眠れるようにするという、あれ。
あーちゃんが自分でその時を選んだのではない。母ちゃんが勝手に決めたのだ。我ながら鬼だと思うわ!
あーちゃんにしてみれば、10日前から「あともうちょっとで卒業だからね」とかなんとか言われてたって分かんないし、昨夜はやけにやさしいおっぱいタイムでニコニコしてたけど、それが最後なんて合意してないし!
あたしゃ聞いてない!いつもの!約束の!寝る前の、あったかくておいしいあれが出てこない。なんでそこにあるのに、出してくれないのよ!鬼!!!
というわけで、泣く。号泣する。スタミナの続く限り泣き続ける。
哺乳瓶のミルクを差しだされるが、これじゃない!両手ではねのけ、怒る。
のけぞり、両腕を振り上げ、両足をバンバンとたたきつけ、布団の端から端まで転げまわり、時に転げ落ちてゴッ!と音をたてたりしながら訴える。
そのうち泣き疲れてコトッと眠る。でもミルクも飲んでいないから数時間経ったらおなかが減って目が覚め、怒りと悲しみと空腹(そのくせ哺乳瓶は拒否する)で、深夜にまた泣く。でもパイは出てこない。何度かそれを繰り返し、長い夜が明ける。
いっとくけど、母ちゃんもつらい。感情的には、本当はずっとだっこしておっぱいをあげたいし。胸は張って痛いからあげたほうがこの瞬間的にはずっと楽だし、眠れないし。
が、途中でくじけては元の木阿弥。これを何日か続ければ、嘘のようにピタッと求めなくなるのだ。哺乳瓶のミルクをしっかり飲み、朝までぐっすりと眠れるようになるのだ。だから、やると決めたらやり遂げるのだ。
第一子のヨーヨーの時は、本当にそういう変容が起こるものか半信半疑で、小さな人を泣かせることに耐えられなくなりそうだったけれど、心を鬼にして3日間で乗り越えた。あーちゃんより更に小さい11か月の時だった。それを経験しているから、今回はまだ自分の精神的な負担は少ない。
赤ちゃんによっては数か月でおっぱいが出なくなって自然にミルクに移行したという話も聞くし、逆に3歳くらいまで授乳を続けるという人もいるし、実際、何割くらいの赤ちゃんがこの鬼の儀式を通過するのかはわからないけど、働くママンの場合、1歳前後のどこかでタイミングを決めて赤ちゃんの執着を断ち切る、このパターン、割と多いんじゃないかな。
これを超えた先には、彼女とわたしには、朝までまとめて眠れる平和な夜が訪れるのである。その素敵な未来が、数日先に見えている。
だから、がんばれ、あーちゃん。(わたしも、がんばれ…!)
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