おっぱいの個性
自他共に認める貧乳は「女子力」に乏しい自分の性質をちょうどよく具象していると思い、三十余年を生きてきた。
37歳にして遅めの初産で巨乳になっても、それは当社比。
本来の巨乳さんたちは、出産すると爆乳さんになる。
産院の授乳指導は同時期に出産したママたちが「授乳室」に集合して行うのだが、その中において「ようやく胸元の開いた服がサマになるようになった」レベルのわたしの胸は、やはり控えめだった。
しかしこの相棒は、みかけによらずアウトプットのできるやつで、第一子ヨーヨーの時には市販のミルクをつかうことのない完母(完全母乳)でいけた。
自分の肉体にそんな機能があるというだけでも驚きなのに、それが渾々として、3キロで産まれた赤子を3倍近くに肥やしたという事実は衝撃だった。
その厳かな事実により「おっぱい力」には自信をつけていたので、まさか「おっぱいが足りない」なんて事態が起きるとは思いもよらなかった。
しかし、今回、あーちゃんの場合はそれが起きたのである。
背景としては、
(1) あーちゃんは、10分も飲めば顎が疲れて飲みやめてしまう。
ヨーヨーは食いついたら1時間でも飲み続けるスタミナがあった
(2) あーちゃんは、ちょっとスンスンいってもすぐまた寝入ってしまう。
ヨーヨーは諦めなかった...新生児期は泣き声といっても蟲だか爬虫類だかみたいで「鳴き声」って言った方が良いようなかんじなんだけど、それをはりあげておっぱいが出てくるまで大騒ぎだった。
(3) 重ねて、あーちゃんは「吐きっぽい」ため、授乳間隔を十分にあけて胃腸をちゃんと休ませたほうがよいという説があり、わたしは産院の「授乳は3時間置き」の指針に愚直に従っていた。
思い返せば、ヨーヨーの最初の2〜3ヶ月はいわゆる「頻回授乳」だった。朦朧としながら絶え間なく飲ませ、ゲップさせ、おむつをかえてうとうとしたら、また鳴き声で起こされ。
インフラは同じでも、プルの強さにこれだけ差があって、頻度も少ないし一度の時間も短ければ、そりゃあ生産量は落ちるよね。
結果、1日を通して飲む量が足りなくなっていて、あーちゃんはおっとりと飢え行き、脱水症状寸前になって緊急入院に至ったのだった。
完母でいけるかどうかは、おっぱいの個性だけでなく、赤ちゃんの個性にもよるものなんだ。
気がついてしまえば当前なのだが、その確信を得たのは、いろいろな検査の結果大きな問題はなくて、また、このたびの「1ヶ月検診」であーちゃんの体重が順調に増えていることを確認できてからのことである。
入院騒ぎの後は、確実に計量できて短時間で十分な量を摂取できる市販のミルクを日に何回か足し、夜は一度寝付くと朝まで起きないあーちゃんを、敢えて3時間おきに起こしてミルクを与えてきた。
厳密には、退院後一時期は「ペースを変えれば良いかも」と思って、3時間おきのルールを排して完母にしてみたのだが、あーちゃんはヨーヨーのように毎時間アピールすることがないため、行政の訪問サポートで体重を測ってもらったら、やはり体重の増加が思わしくなかった。で、あらためて、再びミルクを足す方針に切り替えたのだった。
母乳+ミルクの混合作戦が功を奏して、ほっとした。
しかし、ミルクを調乳するのって実はお湯をわかしたり、ちょうどいい温度にさましたり、時間を気にしたり、哺乳瓶を消毒したりと色々手間なのだ。
初期の頻回授乳の辛さは殺人的ながら、一度軌道に乗れば身一つでいける完母は、やっぱり後がラクだ。
それに、おっぱいは血液からできているので、授乳期間中の母体はゲッソリ削られる。それは「食べても食べても、太らない」ミラクルタイム。
それでヨーヨーの時はあっという間に産前の体重に戻ったのだが、母子手帳を見比べると、今回はやはり自分の体重の減りが甘い。
あーちゃんの胃が自然になおって吐かなくなったら、完母に戻したいなあ。
乳児を肥やすという本分を果たした胸はどうせ元のサイズに戻ってしまうのだ。それ以外のところは太いままという悲劇に至らぬよう、そろそろワークアウトの事も考え始めなくっちゃ。
そんな、欲という名の気持ちの余裕が生じた、1ヶ月検診だった。
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