分別奮闘記文学
大きなレザートートを彼女からもらった。大学1年生の誕生日である。大学生といっても、その時はまだ入学して半年も経っていない。つい数ヶ月前まで部活着と教科書でパンパンのエナメルバッグか、ヴィレヴァンで4,000円のリュックで高校に通っていたのだから、普通のレザートートがたまらなくお洒落で新鮮にみえた。
当然大切に使ったが、その次の誕生日はその子と迎えることはなかった。たしか同じ年度の終わりごろに別れた。その後もまたお付き合いする人は現れたり現れなかったりするが、このレザートートをくれた子のことはその後まあまあ引きずることになる。
忘れられないというほど囚われてもいないが、心のどこかに未練があるなか、すっかり使わ(え)なくなったレザートートがただ自室の片隅にあった。ずっとそこにあるから、完全に背景の一部と化して普段は意識しないのだが、年末、大掃除をするときなんかにまだ部屋にあったことにふと気づく。
もう使わないし、はやく処分してしまおうとも思ったが、もらいものを捨てるのはなんだか気が引ける。捨てようにも、嵩のある革製品を何ごみとしてどう捨てれば良いのかわからなかった。これをごみの日に普通に出して良いのか。革って燃えるのか。ただポリ袋に詰めるだけで良いのか。
レザートートをもらってから何年か経った頃。背景の一部のそれはまだ部屋の実は置いてあった。例によって掃除のタイミングでそれを見つけて、存在を思い出した。いつものようにどうしたものかとしげしげと見回したあとにまた定位置に戻そうとしたが、気づいてしまった。裏地に少しカビが生えていたのである。
さすがにもう置いておくわけにはいかないなと思った。まるでいつもそうしているかのようにポイとポリ袋に入れた。毎週2回のいつもの普通ごみの日、そのポリ袋は回収されていった。捨て方なんてなかった。ただ袋に入れて、普通ごみとして出せばよかったらしい。未練もすっかりなくなっていた頃に、急にそれに気がついた。
という話をお酒の席とかで「これ文学じゃない!?」とたびたび話すのだけど共感が得られたことがない。これ文学ですよね?違ったらいいんですけど