10歳のインターネット
15年くらい前のことである。リアルもデジタルも今と比べると発展途上と言える頃の話だ。マンションばかりが建ち並んでいる最寄り駅の周りもその頃はただの藪で、windowsのデスクトップは草原だった。偉そうに昔を語れる歳でもないが、当時のインターネットはやはり未開といえるほど様相が異なっていたように思う。
その頃小学4年か5年くらいの僕はネット掲示板にハマっていた。ネット掲示板といっても2ちゃんねるのような殺伐としているやつではなく、所謂ハンドルネームを名乗ってキッズたちがワヤワヤやる馴れ合い掲示板だ。あの頃のインターネットでは、個人情報をひとかけらでも書こうものなら一巻の終わりのような扱いだった気がする。在住都道府県を書くだけでその掲示板の長老みたいな人が「>>〇〇さん 個人情報をネットに書くのは危険ですよ。気をつけましょう」とたしなめてくる。当時の僕は気をつけないと知らない人が家に来る…と怯えていたものだった。
一方で年齢くらいは割とみんな気軽に書き込んでいた。キッズの間では年齢であれば個人は特定されないという認識だったのだろう。自分と大体同年代の小学校高学年から中学生くらいが中心で、高校生以上となると流石にあまりいなかった。そんな年齢もまちまちで顔も声もわからない人と敬語で中身のない話をするだけ。それが妙に楽しかった。結局3年くらいはネットの向こう側の彼らと交流があった。
当時もオフ会という概念はあったはずだが、キッズ中心の掲示板でそれを提案する人はいなかった。歳を重ねるごとに掲示板に顔を出す機会も減り。管理人も忙しくなったのかいつの間にか掲示板は出会い系の広告の書き込みなどで溢れ、そのうちサーバーとの契約も切れたようでサイト自体が消えてしまった。
あの頃、ネットの彼らとは確かに友達だったが、彼らと連絡がとれることは二度とない。別に会いたいわけでもないが、ちょうど小学校の時にどこかに引っ越して、卒アルに載っていないクラスメイトを思い出すときのようにじんわりと懐かしい気分にさせてくれる不思議な存在が彼らだ。ふとTwitter上でその掲示板があったサイト名で検索をかけると、当時の住民だったと思しき人がサイトの名前と共に懐かしいという旨のツイートをしていた。時代が少し後だったらTwitterくらいではまだ繋がってたのかな、と思った。
ハンドルネームに†とか龍とか入ってなかったから美しい思い出として語れるちょっとした昔話である。