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箸の使い方のタブーも色々…猫言葉、芝居言葉、しつけの言葉、大阪の俗諺など。秋田實『日本語と笑い』(昭和51年5月25日初版発行 日本実業出版社)より
「猫言葉」
○「ざぶ猫」~主人が来ても座布団からどかない図々しい猫。転じて図々しい妻。
○「猫またぎ」~おいしくない魚。猫が見向きもせずまたいで通るの意味。
○「猫ばば」~きたないものを隠す。猫が糞をした後後ろ足で砂をかけて隠すことから。※これ自体はよく分かるんですが、そこから「他人の物を黙って自分のものにする」という意味に変わるのは何か飛躍がありますよね。
○「猫も杓子も」~もとは「女子(めこ)も若子(じゃくし)も」、つまり女も子供も、誰でもの意味。「猫の手も借りたい」も、元は「女子の手も借りたい」か?※「女子も若子も」が語源だというのは落語「横丁の隠居」に出て来る話です。漫才作家さんらしいですね。この言葉については語源が諸説あります。「猫の手でも杓子でもいいから何でも」だと私は覚えていました(つまり「猫の手も借りたい」という言葉が先にあったと思っていました)。
○「猫」~芸妓のこと。誰とでも寝る「寝子」から。
「芝居言葉」
○二枚目・三枚目~芝居番付けの位置から。それぞれ優男、道化役の意味。
○チョンの間~拍子木をチョンと鳴らす「短い時間」の意味。「喰うてチョン(=食うだけで精一杯)」
○ドロンする~逃げ出すこと。幽霊芝居で幽霊が消えるときのお囃子が太鼓のドロンドロンという音だから。
○半畳~野次ること。芝居が下手だと観客が尻に敷いていた半畳を投げたことから。※大相撲の座布団投げみたいなものですね。
○切り口上~芝居の最後に頭取が紋付き裃姿で舞台に出て「本日はこれ切り」と挨拶したことから。また「きりがない」も「これ切り」からの派生語。
○ごんた~千本桜のいがみの権太から来た言葉で、やんちゃのこと。「ごんたくれ」
○鞘当て~不破伴左衛門と名古屋山三が葛城太夫を争ったことから。二人の男が一人の女を争うこと。
○芸題学問~芝居の看板で、芸題しか知らないのに見たような顔をする男。知ったかぶり。※「門前の小僧習わぬ経を読む」みたいな感じでしょうか。
○千松~空腹のこと。政岡の子の千松、先代萩の芝居から。※「伽蘿先代萩」(めいぼく せんだいはぎ)の千松は「侍の子というものは、お腹がすいてもひもじゅうはない」というセリフで有名。
○金平~雑魚の佃煮のこと。坂田金時の子を主人公にした浄瑠璃の金平人形から。丈夫で長持ちといったニュアンスで「金平」の名を冠した様々な品が売られたが、今残っているのは「金平ごぼう」と「金平」だけである。
○久松~少ししか物を買わないこと。芝居のお染久松で、久松はお染の店の子飼いの丁稚であることから「小買い」。
○人の噂も七十五日~お染久松の芝居、久作(久松の父)の舞台での科白から。※「新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)」通称「お染久松」は1870年初演です。この有名な言葉が本当にこの芝居由来なのかは分かりません。「源平盛衰記」の「人の上は百日こそなれ」が語源とも言われますが、「お染久松」語源説は検索しても出てきません。
○魚心あれば水心~「千両幟」の科白から。※「関取千両幟(せきとりせんりょうのぼり)」通称「千両幟」は1767年初演。本来「好意をもって接すれば、相手も好意をもって応ずるものだ」という意味だったのが、この芝居の八百長を頼む場面で使われたことで「悪事も持ちつ持たれつだ」という悪いニュアンスに変わったということのようです。
「しつけ言葉」
○食事して その場に寝たら 牛になる
○おヘソ出したら 雷に取られる
○裸で 仏壇に行けば 仏が怖がる
○裸で 厠に行けば 身体が臭くなる
○足で足を洗うたら 親の死に目に会えん
○閾を踏めば 親の頭を踏むのと同じ
○嘘泣きしたら 親に早く離れる
○他人の足の裏を掻いたら その人の病い うつる
○犬の見てる前で 食事すれば カク(癌)になる
○食事の時 足を震わせば 貧乏神がくる※食事の時限定の貧乏ゆすりのことでしょうか?
○お皿をお箸で動かすと カク(癌)になる※「寄せ箸」のことですね。
「よくない箸のつかい方」(嫌い箸)
○叩き箸(御飯のお代りをお箸を叩いて請求する)※昔の藤子不二雄の漫画なんかにありましたね。お茶碗を箸でチーンチーンと鳴らして「ママごはんまだぁ?」って催促するヤツ。
○拝み箸(両掌にてお箸を揉む)
○渡し箸(お箸をお茶碗の上に置く)
○さし箸(お芋など突きさして喰べること)※「刺し箸」の方ですね。「指し箸」だと箸で人を指す動作になります。カトラリーで人を指すのは万国共通で大体タブーですね。
○くわえ箸(汁碗を受け取る時、お箸をお膳の上に置かず、口にくわえる)
○かき箸(お箸にて頭をかく)※そんな人います?普通は器に口を付けて箸でかきこんで食べることを言うと思うんですが。
○せせり箸(小楊子の代りにする)
○そら箸(喰べかけて、お箸をつけたものを止めて、お箸をおくこと)※「空箸」と書いて「からばし」と読ませる方が多いようです(意味は同じ)。
○こみ箸(お箸にて口の中へ御飯やお菜を押し込むこと)
○こじ箸(煮物または汁の味など底にあるものを箸にてこじ起こして喰べること)
○さぐり箸(汁の中にまだ何ぞないかと探ること)
○ねぶり箸(お箸についた物を深く舐めること)
○うつり箸(焼きものを喰べて、御飯を喰べずに、すぐに煮ものにうつること)※今はお米食べない人もいますよね。これダメだったら困るわ。
○箸なまり(膾を喰べようか、汁を吸おうかと、箸をあげて見合せて居ること)※「迷い箸」のことですかね。
「大阪の俗諺」※別に大阪限定じゃないものが多いです
○鼠を足で追えば、衣服をかじる
○烏の啼き声、真似したら、アクチ(口頭瘡)切れる※「アクチが切れる」というのは「口角裂傷」のことのようです。このことわざは信濃の方でも言うみたい。
○夜、口笛を吹くと、蛇がくる
○燕を殺したら、口の周囲が赤くなる
○夜、箒を用いれば、福が去る
○夜、爪を切れば、犬の爪が生える※これは怖い!
○夜、鏡を表向けとくと、夜中にロクロ首が出る※鏡が貴重だった時代の話でしょうね。
○名月の夜、北へ流れる川にて、眼を洗えば、眼病がなおる
○「鎮西八郎の親類」と門口に書けば、天然痘にかからぬ※鎮西八郎為朝は疱瘡(天然痘)からの守り神との伝説があります。
○「子どもルス」とシャモジに書いておくと、ハシカにかからぬ
○十二月十二日と書いて、逆さまに貼っておくと、泥棒が這入らぬ(十二月十二日は石川五右衛門が釜うでの刑に遭った日である)
○長雪隠のものは、縁づきが悪い
○カラシを解く時、恐い顔してたら、よく効く※今度試してみよう。
○盗賊の足形にヤイトすえたら、盗賊の足にソコ豆ができる※これは盗賊の遺した足跡にお灸をすえる呪いということなんでしょうかね?
○便所したくなったら、小石三個拾って、お尻を叩く※今は小石を三つ拾うのが難しそう。
○鼻血が出たら、頭のうしろの毛を三本抜くと、血が止る
○手の掌、凹めるものは、金貯める
○耳たぶに、米三粒のったら、福耳だ
○眉にツバ付けたら、化かされぬ(お化は、化かす時は眉毛の数を読むので、ツバ付けたら数が読めない)※「眉唾」ってそういう理屈だったんですね。
○初ものを喰べると、七十五日長命する
○茗荷を喰べると、物忘れする
○若い者の白髪は福である
○寒の入りに、油揚を喰べると、寒中、寒くない
○寒の入りに、南瓜を喰べると、中風にかからぬ
○クシャミをする時、その数によって、一褒め、二そしり、三惚れ、四風邪と言う
○新しい石燈籠又は墓石の角を欠けさして持ち居れば、勝負事に勝つ
○客が長居すれば、箒を逆さに立てたら、帰る
○幼児が立ち初める時、西に向けば、西の者と縁組みする※なぜ「西」限定なんでしょう?
○赤子に、鏡を覗かせると、次の子が早く生まれる
○赤子の顔を、雑巾で拭くと、人おじ(人見知り)しなくなる
○臨月の一日に、第一に女がきたら、女が生まれる
○物尺やツマ楊子は、手から手へ渡すと、仲悪くなる
○針で手足を突いたら、ハサミで叩いたらなおる※絶対悪化しそう。
○メバチコが出たら、ツゲの櫛を畳でこすって、眼に当てる
○夜の昆布は縁起がいい(夜・昆布=よろこぶ)
○朝の蜘蛛は縁起がいい、夜の蜘蛛は縁起が悪い
(朝の殺生はやめておこう、夜の蜘蛛=よくもきやがったな)
○夜蜘蛛は盗人の使い
○座敷から履物をはいて出るときはゲンが悪い
○パッチ足袋を着けて寝る時は、親の臨終に逢えぬ
○竹の箸で食事すれば、出世ができぬ
○短気者に灸を据えさしたら、熱くない
○かまどの肩に刃物を置けば、知らぬ間に怪我する※危険だからやめとけって意味でしょうね。この次のもそう。
○刃物(きれもの)をまたいで通ったら、どこか切る
○桶や笊や焙烙を被ると、背が延びぬ
○歯の抜けた時、下歯ならば便所の屋根へ棄て、上歯ならば便所の雨垂れ落ちに埋めば、良い歯がはえる
○空の桶に入れば、命が短い
○他人のアクビを見たら、伝染る
○柄杓で水を犬にかけたら、犬が一日分の腹をへらす
○ミミズに小便かけたら、局部がはれる
※今回は有名なものから全く知らないものまで色々でした。