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中島聡さんへの質問⑥「日本のIT人材不足問題について」

はじめに

中島聡さんの有料メルマガ『週間 Life is beautiful』の質問コーナーに筆者が投稿した質問文です。参考になった回答を共有します。

筆者の質問

中島さんは以前から、日本のITゼネコン構造(SIer企業)の問題を指摘されています。
「(元請けの会社に所属する)理系出身の人間がコードを書かずに仕様書を作り、
 下請けの派遣エンジニアが程度の低いコードを書いているのが日本のIT業界(Sier)で、
 優秀なエンジニアが育たず、質の低い成果物しか提供できず、競争力がない」という内容だと認識していますが、去年辺りから上記のような内容を(切り口は違えど)SNSで発信しているIT関係者をよく見かけるようになりました。

彼らの多くはポジショントークであり、(アフィリエイト目的の)ブロガー、
(集客目的の)プログラミングスクール、(採用目的の)Web企業が発信元ですが、彼らの声は強く、「SES企業(客先常駐)=悪」という雰囲気が、TwitterのITコミュニティ内に形成されつつあります。その影響なのか、若い人たちを中心に”Sier離れ”が確実に起きており、「SIer→Web業界に転職希望者」が急増しています。そういった流れをこの1年間くらい肌で感じています。

SIer業界に構造上の問題はあるのはその通りだと思いますし、その情報が共有されることで、(感度の高い)若い世代から業界から離れていくのは自然で、それ自体は悪くないことだと思っています。ただし今、Sier業界でIT人材が大量に不足しているのも事実です。この問題を解決するには、業界未経験者(フリーターやニート、肉体労働者まで含む)を中途採用して教育しかないと私は思います。SIer業界では、ITスキルを求められない仕事が相当あるので(クライアントPCのセットアップ(マニュアル付き))等、最初の案件獲得には困りません。そこから学習を続けてキャリアアップを図ればいいと考えています。

以上は私の考えですが、

中島さんは、今の日本のIT人材不足をどのように捉え、この問題を解決するにはどのような方法がいいと思われますか?

中島氏の回答(1/29メルマガにて)

SES企業の問題は、正社員が仕様書を書き、(ちゃんとしたコンピューター・サイエンスを勉強していない)子会社や派遣社員の人がプログラミングをするというゼネコンスタイルそのものにありますが、そんな構造が出来てしまう根本の原因は、人月工数の受注型のビジネスモデルにあります。

人をたくさん投入して手間暇をかけた方が儲かる、仕事量は減ったり増えたりする、という状況では、人件費の高い優秀なエンジニアを正社員で抱えるのではなく、必要に応じて増減が自由にできる子会社のエンジニアや派遣社員を使った方が良いのです。

なので、大学でコンピューター・サイエンスを勉強した人たちが、こんな業界で働きたがらない当然で、人材が不足し、ますますコンピューター・サイエンスとは程遠いところにいる人たちを、「なんちゃって派遣プログラマ」として雇い入れて過酷な環境で働かせているのがこの業界です。

おっしゃるように、そんな人たちの中には過酷な労働環境の中でも何とか学習を続けてキャリアアップに成功する人もいるでしょうが、労働環境の悪さはビジネスモデルから来ているので、とても稀であり、そんな方法では人材の育成は出来ないと私は思います。

今のままのビジネス構造で IT 人材不足を補うのであれば、結局は、インドとか中国にアウトソーシングという形しかないと思いますが、それはそれで、言語の壁や文化の壁があり、難しいのが現状です。

しかし、大きな流れとしては、エンタープライズ市場も受注型から SaaS 型のビジネスモデルにシフトして行くことは明確で、その中で、業務に特化した部分のみカスタマイズするという受注ビジネスが一次的には伸び、さらに、そのカスタマイズのプロセスがエンジニアでなくても出来るようになる(顧客自身が出来るようになってしまう)、というのが正しい進化の方向だと私は思います。

良い例がウェブサイトの作成で、昔は全て受注で手作りでしたが、Wordpress などのオープンソース・プラットフォームの誕生で、より効率良く、品質の高いものが作れるようになりました。しかし、それでもエンジニアが必要だったので、さらに一歩進めた Wix や Squarespace のような、エンジニアを雇わなくても(つまり SES 企業に頼らなくても)、品質の高いウェブサイトを作れるようなサービスが誕生しました。

つまり、「ウェブサイトの作成」という分野においては、Wix や Squarespace などの SaaS 型のビジネスモデルが、エンジニアなしでウェブサイトを作れるようにしてしまい、IT 人材不足を解決してしまったのです。一昔前であれば、数百万から数千万円かけてSES企業に作ってもらっていたウェブサイトが、わずか月々2000円程度で手に入るようになってしまったのです。

業務用ソフトウェアには様々なものがあるので、全てをこのような SaaS ビジネスで置き換えることは簡単ではないし時間がかかると思いますが、進化圧は十分にかかっており、だからこそエンタープライズ向けの SaaS ビジネスが勢いよく伸びているのです。

私が今、エンタープライズ向けの会社を作るのであれば、どう考えてもSaaSビジネスだし、エンジニアとして働くとしても SaaS ビジネスを選ぶのはここに理由があります。

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