クリスチャン・シオニズムを拒絶
最近、日本のクリスチャンに、明るい話題がありました。
日本プロテスタント教会最大の教団:日本基督教団が協約を結ぶ、アメリカ長老教会(PCUSA)で採択された議案が、日本基督教会のホームページに記載されました。
その内容は「あらゆる形態のクリスチャン・シオニズムを拒絶する」という議案です。
これを受けて、日本基督教団も今後、この告白を採用・決定して行くと考えられています。
そして、この動きが、他教団にも広がり、日本のクリスチャンの信仰が、さらに深められることを願っております。
今回は、その背景を、一般の方にも分かるような形で書きたいと思います。日本では、カルト宗教が多い事から、正統派キリスト教への理解があまり進んでいません。
その誤解を解くきっかけになればとも思います。
クリスチャン・シオニズムとは? シオニズムとその背景
現在、アメリカのクリスチャンの四分の一を占める、“福音派”と呼ばれる方々は、非常に極端な思想を持っていると言われています。
一言で説明すると、聖書の中に記録され、現在は存在しない「イスラエル」と、1948年に、中東に半ば強引に建国された「現イスラエル国家」を同一視するような思想です。
この思想は「クリスチャン・シオニズム」と言われるようになりました。
元々「シオニズム」とは、イスラエル建国を後押しした政治思想の事を指します。現在の西欧世界で、シオニズム思想は非常に重要な位置を占めています。シオニズムを推進する方々をシオニストと言います。
表向き、1948年のイスラエル建国は、「ヨーロッパで迫害されたユダヤ教の人々(以後ユダヤ人と省略)のために国を作ってあげよう」という善なる目的でした。
しかし、実際には、迫害を受けたとは言え、ヨーロッパ各地で、それなりに豊かに暮らしていたユダヤ人たちは、「人様の土地を略奪してまで、建国したくない」という気持ちだったようです。
また、イスラエル建国前は、パレスチナの土地で、アラブ人、ユダヤ人、キリスト教徒、パレスチナ人など、雑多な民族・宗教の方々が、平和に暮らしていたと言われています。
それを「ユダヤ人のため」と言う名目で、パレスチナの土地に、半ば強引にイスラエル国家が建国されました。そして、中東戦争により、イスラエル側の土地は広がって行き、現在は、パレスチナ人は、ガザ地区や西岸地区など、狭い範囲に追いやられ、イスラエル政府の庇護の下で暮らしています。
詳しい歴史背景はこちらからどうぞ↓
昨年10月、パレスチナ側のテロ組織:ハマスが、イスラエル人を人質に取る事件が発生。その報復として、イスラエルはガザに激しい攻撃をスタートし、現在に至るまで攻撃は続いています。
西側諸国、メディアは、当然ながらシオニストで構成されていますから、当初、イスラエル政府を支持していました。ところが、イスラエル側は、病院・避難先など、民間人への容赦ない攻撃をしていることが判明。次第に、世界中から、「パレスチナ擁護」の声が上がり、その声に押されるように、西側メディアも、イスラエルのパレスチナ攻撃は、「ジェノサイド」だと報道を始めました。
そういった中で、人々は、それまで黙っていた、「1948年のイスラエル建国」に対しても疑問を感じ始めます。さらに、建国を推進した政治運動―シオニズムの信奉者たち、つまりシオニストへも疑いの目が向けられました。
なぜなら、世界はいつの間にか、シオニストに支配されているからです。
それまで、西欧では、シオニズムに反するような意見を述べることは、禁止されていました。それを「アンチ・セミティズム」と言います。このレッテルを張られると、逮捕、入国禁止、公的活動の停止などが行われます。
人々はそのことに疑問を感じながらも、シオニズムは、第二次世界大戦中に、ドイツ・ナチズムに強制連行されたホロコーストの犠牲者のためだ、ユダヤ人を守るためだと思い、我慢していたのです。
ところが、シオニストは、ユダヤ人を守っているどころか、「ユダヤ人の影に隠れ、ユダヤ人の振りして、ユダヤ人を二重にも三重にも搾取している」事が、正統ユダヤ人たちにより、明らかにされてきました。
参照:Torah Judaism (正統派ユダヤ人の団体)https://twitter.com/TorahJudaism
最近の戦争により、世界の目がガザの惨劇に向けられると同時に、この団体の主張も共通認識され始めました。
世界中の人々が、気付いてしまったのです。
シオニスト≠ユダヤ人であることを。
イスラエル国家≠ユダヤ国家であることを。
世界は変わりました。私は、1989年のベルリンの壁の崩壊の時と、同じ解放感を感じています。世界は「シオニズムの嘘」が通用しなくなったのです。
シオニズムは、ユダヤ人を守る事ではなく、シオニズムが支配の道具として使われていることに、人々が気付いたのです。
とは言え、ヨーロッパの国々は、未だにシオニストが国家を支配しています。アンチ・セミティズムのレッテル貼りがなくなったわけではありません。完全に消えるまで、しばらく時間が必要なのでしょう。
もう一つの大きな問題 米国の状態
ヨーロッパから始まったシオニストの政治活動ですが、これがなぜかアメリカでも、支配の道具として使われています。今や、アメリカ政権の主要ポストは全てシオニストが握っています。
彼らは、基本的に、イスラエル国家とアメリカ国家の二重国籍を持ち、アメリカの政治を、イスラエルの利益のために使います。
自国の政治家が、自国の利益ではなく、他国の利益のために活動すれば、国民は普通は黙っていません。
しかし、なぜか、キリスト教国である米国内で、「ユダヤ人に優しい神学」が広まっており、1948年のイスラエル建国は「聖書預言の成就」と信じ切っている方が多く存在しています。もちろん、ユダヤ人の切望する第三神殿などの賛同者です。これが「クリスチャン・シオニズム」です。
参照:第三神殿についてはこちらの記事をどうぞ↓
彼らは、宗教上のイスラエルと、現実世界のイスラエルを同一視しています。また、イスラエル国家の横暴や、シオニストの権力乱用を見逃しています。それは完全に間違った神学を信じているからです。
この危険性に気付かせるような、洗練されたインタビューを見つけましたので、以前記事にしました。
この記事の中で、イエス生誕の地:ベツレヘムで、キリストへの信仰を守っている、ベツレヘム・ルーテル福音教会牧師、マンサー・イサク(Munther Isaac)氏のインタビューをご案内しました。
イサク牧師は訴えます。イスラエル建国は、何もない荒れ地に建国されたのではない。多くのパレスチナ人―その中にはクリスチャンも含まれるーの死体の上に建国されたのだと。現実を見て、目を覚まして欲しいと、ガザの惨劇を見て気付いて欲しいと、涙ながらに訴えました。
そして、今回、アメリカ合衆国長老教会(PCUSA)の第226回総会(2024年7月開催)で「クリスチャン・シオニストに関する議案」が採択されました。
この議題の内容は、下にリンクを貼っておきますが、基本は、「あらゆる形態のクリスチャン・シオニズムを拒絶する」という明快な内容です。
特に、聖書上のイスラエルと、国家としてのイスラエルを同一視しない事が明記されています。
この内容は、少し遅れて、PCUSAと協約を結んでいる日本基督教団のホームページに、11月7日付けで発表されました。
ネタニヤフ首相への逮捕状
加えて、11月22日、「国際刑事裁判所(ICC)が、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、ヨアヴ・ギャラン元国防相、ハマスの指導者アル=マスリに逮捕状」のニュースが入ります。
これまでイスラエル擁護だった西側各国は、ICCの決定に従うと、次々に表明。今現在は、スペイン・カナダ・フランス・ベルギー・アイルランド・オランダ・スイス・イタリアが賛同しています。
これまで見過ごされてきたイスラエル政府の横暴に、逮捕状が出たことで、今後、世界の流れはさらに大きく変わるのではないかと思われます。
日本における状況
日本は、西欧社会のように、「シオニズム」や「アンチ・セミティズム」を意識しないで日常生活を送る事が出来る、世界では珍しい国です。
しかし、その中にあって、なぜかアメリカで広まっていた「クリスチャン・シオニズム」の思想が、日本の教会内で広まっていました。
最近、私もそのことを日本のクリスチャンから教えていただき、驚きました。
キリスト者の中には、シオニスト的な思想に疑問を感じながらも、牧会者の教えや、教会仲間の意見に、表立って反論出来ない状況の中で、苦しまれていた方々がいました。
特に、現在のガザの情勢に、心を痛めていたキリスト者も多かったでしょう。表立って、反イスラエル政府の立場を示せない、息苦しい雰囲気の中にあったようです。
しかし、今回の、ICCの決定により、現イスラエル政府は国際的な犯罪者であり、PCUSAの採択により、「クリスチャン・シオニズム」は間違った神学であるとの確証を得ました。
今後は、ガザ・イスラエル双方の平和を祈り、ガザでの悲惨な状況に同情を示すことが出来ます。また、イスラエルを特別な国家として見るのではなく、通常の一国家として眺めることが出来ます。
そのことに、まずは皆で安心したいと思います。
その一方で、これまで日本に広がっていた「クリスチャン・シオニズム」の思想をどう扱うのか、新たな問題を生むことになりました。
私は、第二次世界大戦後、日本基督教団が行った、「積極的に戦争に参加したことへの反省」と同等レベルの告白を、今回も教団が発表することで、信徒間の分裂が、避けられるのではないかと思っています。
単にPCUSAが採択を取ったからという報告だけで、済まされない問題です。
これまで、誤った神学を教えなければならなかった牧会者や、その教えを信じなければならなかった信徒に対して、はっきりと謝罪し、今後の新しい指針を示す必要があるのではないでしょうか?
このままでは、キリスト者間に亀裂が生まれますし、今後の教団の運営にも支障が出る事でしょう。
日本のキリスト教界が、必要以上に、米国から影響を受けた事を反省し、また、その米国内での変化にしっかりと対応する必要があるように思います。
今回の大きな問題を、日本のキリスト者が一つとなるきっかけとなって欲しいと思います。また、一般の方にも興味を持っていただき、さらなる福音の広がりを期待します。
そして、すっきりした形で、皆でさらなる信仰の深まりを目指したいと思います。
日本基督教団ご関係者の方々のご英断をお祈りいたします。
索引
■アメリカ長老教会(PCUSA)で採択された議案
■「クリスチャン・シオニズム」がどのように教えられていたのか
以下、田村隆明@土佐の高知のバイブルチャンネル様からお借りしました。
追記:誤字脱字、事実確認の訂正は随時行います。