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『虚無への供物』と「三島由紀夫が作者に感想言いにきた話」

中井英夫『虚無への供物』。1964年発表。著者が42歳の時に出版された作品です。元になる小説が初めて書かれ始めたのは1955年、雑誌『アドニス』にて。

『アドニス』は1952年創刊の日本初の男性同性愛雑誌です。別冊の小説雑誌『APOLLO』に三島由紀夫も寄稿していました。

『虚無への供物』が上梓されたとき、読了した三島由紀夫が、著者の中井英夫に感想を伝えに来た面白いエピソードが残っています。

三島が中井の家を訪ねたとき、中井は旅行中でした。数日後に帰る予定だったのですが、今すぐにでも感想を言いたかった三島は、なんと旅先まで追いかけていったのだとか。

これは中井英夫の方のあとがきに残っていることです。

三島由紀夫は登場人物について「久生と藍ちゃんが好きだ」と言った。でしゃばりと言えるほどイキイキとアグレッシブなヒロインの久生と、ファッショナブルで純粋な男子高校生の藍司。

藍ちゃんの方は「ゲイなら好きになりそう」と言えるけど、私からすると「久生が好き」ってちょっと意外な感じでした。こういう女性が頼もしく楽しく思えるのかな?と思ったり。案外女性として好みのタイプだったりして。

三島由紀夫はまた、チョイ役で名前だけ登場する日本舞踊家「藤間百合夫」が自分を元ネタにしていることがすごく嬉しかったみたいです。この人物を主人公に1本小説を書いてほしいと言った。「無茶な」とは思ってしまいますけど、実現したら楽しかったかも。

1970年に三島由紀夫は自決しています。このエピソードの1964年はその6年前、三島は39歳。いちおう中井英夫の方が年上になるわけですけど、その辺あまり気にせずにフランクに付き合っていた感じなのが、2人の仲の良さを感じさせます。

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