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復刻ー「名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣」
今回は広重の「名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣」の復刻版を作りました。
今回の制作コンセプトは「出来るだけ低コストで手早く、その中でなるべく良いクオリティーのものを作る」ということでした。
今作は様々な業者の方への卸販売用に作りましたが、もしかしたら個人的に欲しい人もいるかもしれないのでウェブショップでも販売しています。
(今回の原画は国立国会図書館デジタルコレクション(https://dl.ndl.go.jp/pid/1312337/1/1)のものを参考にしましたが、色や線は結構違うものになっなっています。然しながらそういうことは一般的に復刻では珍しいことではありません。また彫りや摺りに多少雑なところがあっても鑑賞上に何ら支障がないことは、特に江戸時代のオリジナルにおいて顕著に示されているところです。江戸時代の浮世絵の制作状況や技術水準、乃至、オリジナルと後世の復刻版の比較からは、彫りや摺りに雑な箇所がある方が却ってリアルであるとさえ思われます。
浮世絵は日本の芸術というような見方は一般的かもしれませんが、その一方で、本来は印刷技術や安価に手早く作られていた商業印刷物としての側面も持っています。私の見聞上、昔の彫師や摺師ほどスピードを重視していたと見られますが、それはそのことに由来してるのだろうと思います。また或いは、明治時代以降現在にかけて、浮世絵は「商業印刷物」から「芸術作品」へ、そしてその技術は「印刷技術」から「美術表現技法」へと変化して来たのかもしれません。
ある昔の摺師は「名人の仕事には"遊び"がある」と言っていました。個人的な解釈では、隅から隅まで完璧に丁寧に作られたものではなく、基本的には丁寧に出来ていながら、スピード感とそれに伴う適当さがそれとなく残っているような仕事の方が、却って名人の仕事のように私には思われます。
ただ今回の復刻はそういったレベルからは程遠いものとなりました。)
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今回は以前使用した山桜の版木をカンナで削り直して再利用しました。生産コストを下げるにはこういう技術も大事です。
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主版が彫り上がりました。ここまでで彫り始めてから10日が経ちました。
主版から必要な枚数を紙に摺って色版用の原稿を作り、それを元に色版を彫って行きます。色版にはシナベニアを用いました。
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全ての色版の彫り上がりまで、最初に主版を彫り始めてから18日が経過しました。
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今回の用紙は楮紙を使いましたが、ドーサ(滲み止め液)が引かれていないので自分で引きました。
版と紙の用意が整ったら、まずは試し摺りをしてみて版の確認をします。たまに版の彫り忘れがあるのでこの段階で確認します。
試し摺りをして版の確認を終えたら、本摺りスタートです。今回は120枚摺りました。
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今回は計17色、120枚を5日間で摺り上げました。
この後は検品作業などをします。
今回は用紙の表側のみに経年加工として少し古色を付けました。古びがある方が雰囲気が出て良いなと思ったからです。
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今回は、休日を挟みつつトータルで約1ヶ月の作業となりました。
業者の方々に好調に買ってもらえれば、これで15万位の収入になります。なので大体これくらいの早さで作る必要があります。
一応断わって置きますが、報酬的にこれは彫師や摺師の仕事ではありません。
今回は卸売用に作ったと言いましたが、もしかしたら個人的に欲しい人もいるかもしれないので、自身のウェブショップでも販売しています。
尚、私の友人が、「墨線一色だけのものも面白いし欲しい。他にも欲しい人がいるかもしれないし、売ってみたら?」とアドバイスをくれて、確かになと思ったので、今回は墨線だけのものも販売しています。(こちらは古色は付けていません。)
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ウェブショップ:
https://ukiyoereproduction.etsy.com