店員さんが教えてくれたのはブラックジーンズ
10代の頃、僕は、なかなか個性的なファッションをしていた。どう考えてもダサかった。
ある日、バイト仲間が、クラブのようなところへダンスを見に行こうぜと誘ってくれた。
僕はそういうところに行ったことがないので、どういう服を着ていけば良いかわからず、お気に入りの赤いボーダーのシャツと、赤いハーフパンツで行った。
そしたら、「おまえ、マクドナルドみたいだな」と言われた。
言われてみれば、たしかにマクドナルドだった。
ダンスが始まると、ひときわダンスが上手くて輝いている人がいた。彼女は彼の知り合いらしい。
ダンスが終わったあと、彼女と彼と僕の3人で話をした。マクドナルドの僕は、たぶん彼の魅力を引き立てた。2人はその後、上手くいった。
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服を買うとき、かっこいいなと思うシルエットや、きれいだなと思う色、特徴的な図柄など、僕は、洋服を「見た目」だけで選んでいた。
選んだ服を着て鏡の前に立ち、自分を客観視して選ぶという、あたりまえのことをしていなかった。
だから、いつもマクドナルドだった。
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どうも、服を買うのが苦手だった。
特に、ショップの店員さんに、声をかけたり、かけられたりするのが、苦手だった。
服のセンスに自信がない上、何か自分のことを見透かされているような感じがして、服を買うときは、いつも汗が噴き出していた。
でも、あるとき、勇気を出して、ショップ店員さんに相談をした。
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「そうだねぇ、ブラックジーンズを1本持っているといいと思うよ」
奇抜な見た目の店員さんは、とてもやさしく、いろいろと教えてくれた。
「それから、こういうのはどう?」
ブラックジーンズのほか、無地のシンプルなシャツをいくつか勧めてくれた。
試着してみて、どれもすごく自然で驚いた。
「うん、いい感じだね。とても似合っていると思うよ。」
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そのときまで、僕は、服自体が魅力的なものを選んでいて、自分に似合うかどうかなんて考えていなかった。
店員さんが勧めてくれなかったら、ブラックジーンズもシンプルシャツも自分で買うことはなかっただろう。
程なくして、それらのシンプルな服は、僕が過去に選んだ個性的な服たちを引き立てた。
ダサいと思っていた洋服たちがそれらの服のおかげで輝き出した。
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それ以降、僕は、自分に似合うかを第一に考え、特に、シンプルな服を好むようになった。
そして、あるとき気がついた。あのとき、店員さんが選んでくれた服は、実はディティールにこだわりがあって、めちゃくちゃオシャレだったということを。
引き立て役だと思っていたシンプルな服は、実はとても複雑で、ずっと奥が深く、魅力的だった。