脱ヒキニート体験記
受験に失敗して、というより何もかもへのやる気をなくして引きこもっていた。
当時テレビCMがガンガン流れていた登録制派遣のアルバイトをやったら、今でいうパワハラ・セクハラ・モラハラの横行する現場に派遣され、誇張でなく熱中症で死に損なった。
私みたいな虚弱な人間は働くこともできないんだと思った。
それから十年以上が経ち、父が定年を向かえ、最愛の祖父が他界した。
子ども部屋おじさんをやっている場合じゃない。ずっとこのままでいられるわけじゃないという意識はあったけど、現実感も切迫した危機感も感じていなかった。
高校の友人の結婚式に招待され、彼が幼馴染や職場の人や我々に囲まれて幸せそうに笑っているのを見て、とても嬉しかった。
結婚したのは彼なのに、どうして私までこんなに嬉しくて幸せな気持ちになるのだろう。ヒキニートなのに。
ひょっとして私が結婚したら、彼をはじめとした私の友人たちも、今の私みたいに幸せな気持ちになってくれるのかな。
そう思ったら生まれて初めて「結婚したい」と思った。
行動に移せないまま自堕落にYoutubeを見ていた。トップページに視聴履歴に基ずくオススメ動画としてリリカルネッサンス『The Cut』のMVが表示されていた。絶対見るもんかと思う程度にはへそ曲がりだったが、時間はいくらでもあるので結局見た。
働いて、金稼いで、アイドルネッサンスのライブに行きたいと思った。
クリニックで、働きたいがハローワークに行けばいいのか尋ねてみた。就労支援を受けることを薦められた。
ハロワのサイトを隅々まで見ると、若者サポートステーションという厚労省の就労支援事業を見つけた。
電話は心臓吐き出しますかってくらい苦手で、怖くて怖くて仕方なかったけれど、サポステに予約の電話を入れた。
予約した日に来所すると、電話で応対してくれた職員さんがインテークの説明をしてくれて、そのまま担当相談員になってくれた。
自分の来歴を話し「たぶんお力になれると思います」「あなたの目的のためにサポステの資源を活用してください」と言われた。
それから一週間か二週間に一度、面談に通うようになった。
自身の棚卸しをして、自分の説明書を作り上げる作業が始まった。
VRTという興味検査を受けた。アンケートのように選んで数字をつけて評価するだけなので難しくはない。
自分は情報と人を扱う仕事に興味があり、物を扱う仕事に興味が薄いことがわかった。
GATBという適性検査は簡単な計算や枠の中に図形を書くなどの設問があったと思う。運転免許の適性検査に似ているが、もっと念入りだった。
結果は、空間認知と手先の供応がやや標準より不得意であることがわかった。あとからふり返れば発達障害特性や感覚統合の度合いを測るためのものだったのかもしれない。
VRTとGATBの結果から、いくつかの職業が候補にあがる。その中でやりたいものを3つ選ぶように言われたので「作家。ミュージシャン。政治家」と答えた。
「その職業に就くために今努力していることはありますか」と冷静に返され「特にないならインターンやプログラムへの参加で経験を積みましょう」と言われた。
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