SS「きらめいて、私の手をすべり落ちて」
あの男ががほざいたことによると。
男という生き物は、打ち上げ花火のように生きるのが一番よい。
高く、高く、どこまでも高く上がっていって、空に到達したとたん。
大きく弾けて輝いて。
消えてしまうのがよい生き方だと。
はあ。
ため息をもう一度。冷や酒をもう一杯。
あいつは男のダメなところを詰め込んだ男だったが。そういうところが、もっともダメなところだった。
きゅうりの浅漬けを一口囓る。ざっくりと歯形をつけて嚙みきってやる。蹂躙。口紅がわずかに切断面に残る。
そういう風に生きたかったのであろうし、そういう風に生きたつもりなのだろう。
笑止。
『各地でお盆休みを満喫する子供たちの姿が』
『はなび。はなびきれいです」
テレビ画面に映る閃光。
回転花火。またの名をねずみ花火。
何が打ち上げ花火なものか。貴様の人生はあちらであろう。
くるくるくるくる這いずって、地べたをのたうち回って。
逃げ惑う弱者に嘲笑され。
嘲笑する弱者を追い回し。
てんで言うことを聞かず。踊って踊ってすり減って。
きらめいて、きらめいて、我を見よ。命燃やしてきらめいて、無様に無様にきらめいて。
いきなりぱすんと消えてしまった。
『こちらはお墓参りの帰りだそうです。いかがでしたか?』
『いやあ、暑くてたまらんです。まあ、でも、これでお父さんらも安心して帰ってこれます』
あの男は帰ってきやしないがな。
日頃は呼びつけないと来ない。
自分から帰ってくるときは、きまって火の粉でひどい有様だった。
生き物は肉体がなくなってしまえば、どこも傷つきようがないのだ。
故に、決して帰ってこない。
あの、いかにもすねたような顔で。別に言わなければ叱られはしないものを。
暴れ回った傷もそのまま。手当てなんてしてやるはずもないのに。まるきりそのまま。
玄関の前で座り込んで、刀をすがるように抱きしめて。
じろっとこちらを上目に見る。
とっくにいい歳をして、見目良く強くなったというのに。
いつまでも、いつまでも、私に叱られるために帰ってきた男。
回転花火。
地面で悲痛に跳ね回る、君の光はうつくしかった。
了
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