とあるショウガイシャ
(自分の価値を決めるのは自分だけ。当然である。しかし、人を分類するのは学者である。あるものは人種として色で見分けた。あるものは遺伝子で種類を分けた。そして、あるものは病気の有無で健常者と障害者を分けた。そう、違いは病気だけで人は人である。そして、その事実は恐ろしいものである。)
さあ、これが手帳だ
わかりました。この手帳が認定された証ということですね
そうだ。今日から君はケンジョウシャではなくなった
まだ、納得はできませんが
君が納得するかしないかはさして問題ではないのだよ。社会が決めた評価軸みたいなものだ
人の価値を人が決める。恐ろしいことではありませんか?
そんなことはない。これまで人類が幾度もやってきたことじゃないか。「あの国の人間はこう、あの人種はこう、あの地域の人間はこうってな。自分と何が違うのか。そんなことは考えない。違うったら違うのさ、馬鹿の一つ覚えだぜ。なんて愚かなものだ。それが人類というものなのさ
しかし…それでもおかしいじゃないか
おいおい、身勝手じゃないか。まあ俺も人のことを言えた義理じゃないが、お前だって「黒人だから足が速いんだ」とか「沖縄の人はのんびりしてる」とか「日本人は几帳面」とか思ったことは一度や2度はあるだろう?それと差別の何が違うか。俺だって知りたいね
差別ではない。少なくとも私は差別などしていなかった…
区別だってか?言い訳にしかならないね。まあ、とはいえ言い訳でもしといたほうがいいさ。それが自分の正当性を保つ、唯一できる行為だからな。人間はいつだってそうさ。何かから逃げたいと願う時、必ず正当化する。自分の行動や自分の思想を。俺だって、手帳公布係なんて正当化でもしなきゃやってらんないぜ。「今日で君はケンジョウシャじゃなくなる」こんなセリフ言いたいわけがないだろう
ええ、理解はしています。しかし、納得できない。私はただ、あの病気になっただけじゃないか。これはあんまりだ。人権とは一体…
その人権が君をそうさせたとも言えるがね。まあ、神がいるならこんなことは起きないんじゃないか?だから俺は神も仏も信じちゃいないさ
私はね。昔っから緊張しやすかった。だから酒に頼ってしまった。結果として酒に溺れてしまったが、それはあくまで結果に過ぎない。その過程を誰も見もせずに中毒は社会の敵であり、ショウガイシャとして認定すべきという機運は盛り上がってしまった
その機運にお前は反対したかい?アル中、ヤク中、ギャンブル中。嫌なもんに変わりはないさ。この世の娯楽は薄まっていくな。まあ何事も適量にってやつさ
ああ、明日から私は障害者なのか
ショウガイシャとは一体何のことだというのだ。
同じように感動し、同じように喜び、同じように痛みを覚えるものをなぜ区別しなければいけないのか。
それは私にもわからない。
まわりまわって、世の中が幸せになる使い方をします。