不動産投資初心者が減価償却を理解する3つのポイント
減価償却、正しく理解できていますか?
「調べても調べてもいまいちよくわからない。」
こんな人は多いんじゃないでしょうか。
私も初めての物件購入時は、何度調べても減価償却の意味がよくわかりませんでした。
なかには「減価償却はお金が減らないのに、利益を減らせる魔法の経費です」と書いてあるものまであります。
これほんと?って感じですね。
今回は不動産投資を始めたいと考えている人が、最低限押さえておきたい減価償却のポイントを3つ紹介します。
減価償却の計算方法を誤ると物件購入時のシュミレーションが大きく外れます。
正しく減価償却を理解しましょう。
ポイント①減価償却とは経費を複数年に分割して計上すること
減価償却を一言で表現するなら、「物件購入にかかった費用を複数年に分割して経費計上すること」です。
例を2つあげて紹介しましょう。
年間100万円の家賃収入がある場合で考えてみます。
例1)不動産を運営するために10万円の商品を購入した
この場合の会計処理は、そのまま10万円の支出(経費)として処理します。
100万円の家賃収入があるので、この年の利益は「100万円-10万円=90万円」です。
例2)1,000万円の不動産を購入した
不動産を購入するために1,000万円を支払いました。
収入は同じ100万円です。
先ほどのように計算すると「100万円-1,000万円=-900万円」となり、900万円の赤字になります。
例2)のような場合には「減価償却」の概念が登場してきます。
難しい説明は省きますが、減価償却とは高額な商品を購入したときに、複数年度に分けて経費を計上することをいいます。
減価償却には購入した商品(不動産)を何年に分割して経費を計上するか法律で定められています。
不動産投資の場合では主に以下の数字を利用します。
減価償却の年数はこのほか、什器(机やいす)、パソコン、家具などそれぞれ細かく年数が決められています。
例2)の不動産が木造の場合は、「1,000万円÷22年(木造の場合の年数)=45万円」が1年間に経費にできる金額となります。
このように減価償却とは、高額な商品を購入したときに法律で定められた年数に分割して経費計上することを言います。
不動産投資のシミュレーションをする場合、購入費用は複数年に分割して経費として計上するということを覚えておきましょう。
減価償却の仕組みをより詳しく理解したい人は、以下の記事もあわせてご覧ください。
ポイント②分割する年数の計算例
減価償却で分割する年数は法律で定めらえています。
不動産を新築する場合には、定額法と定率法という二つの方法で毎年計上する経費を計算します。
今回は新築の計算方法については説明は省きます。(これもたいして難しくはないです)
いっぽう、中古不動産を購入する際は、簡易法と呼ばれる方法で経費の金額を計算します。
簡易法では、購入した中古不動産の築年数が耐用年数を超えているかどうかで計算式が変わってきます。
①築年数が耐用年数以内の物件
築年数が耐用年数以内の物件の場合の、計算式は以下の通りです。
築10年の木造(耐用年数22年)で計算してみます。
「(22年-10年)+10×20%=14年」
この場合の減価償却で分割する年数は「14年」です。
購入金額が1,000万円の場合、「1,000万円÷14年=71万円」で毎年71万円の経費を計上します。
②築年数が耐用年数を超えた物件
築年数が耐用年数を超えた物件では、計算式が変わります。
築30年の木造(耐用年数22年)で計算してみます。
「22年×20%=4.4年」
減価償却で使用する計算は小数点以下切り捨てです。
つまり、この場合の減価償却で分割する年数は「4年」ということになります。
購入金額が1,000万円の場合、「1,000万円÷4年=250万円」で毎年250万円の経費を計上します。
減価償却で複数年に分割する年数は計算方法が法律で決められています。
中古不動産の場合は、簡易法で計算して、耐用年数を超えているかどうかで計算方法が異なります。
購入予定の不動産がある場合は、物件の構造(木造、鉄骨造、RC造)と築年数を確認して、簡易法で分割する年数を計算してみましょう。
分割する年数が分かれば、購入金額を年数で割ればOKです。
ポイント③不動産は土地と建物に分ける
「減価償却の年数が10年の中古不動産を1,000万円で購入したら、毎年100万円の経費が計上できるだ」
と思ったかもしれません。
しかし、不動産投資の減価償却にはもうひとつ大切なポイントがあります。
それは、不動産の減価償却は土地と建物に分けなければならないということです。
「土地と建物に分けてもやってることは一緒でしょ?」
と思うかもしれませんね。
これはちょっと違います。
少しだけ難しい話をしますね。
会計上では不動産のことを「資産」と表現します。
建物は年数の経過によって、設備が壊れたり外壁や屋根が劣化します。
償却期間10年の不動産(資産)を1,000万円で購入した場合、経年劣化によって毎年100万円ずつ資産の価値が低下すると考えられています。
これが減価(価値が減り)償却(減った分の金額を償却する)の言葉の意味です。
ちょっと何言ってるかわからなかった人は、こちらの記事を読んでみてください。
もう少し、わかりやすい例で減価償却を解説しています。
話を戻しましょう。
不動産の減価償却(資産)は土地と建物に分けます。
ここで質問です。
土地とは、突き詰めると人間が決めた陣取りの線にすぎません。
アスファルトが劣化するとか、草がボーボーに生えることはあっても、人工的に決めた陣取りの線が劣化することはありません。
つまり、土地は経年劣化によって価値(資産)が減少しないということです。
「けど、地方の地価は下がってるって聞きますよ」
これは、経年劣化で土地の価値が下がっているのではありません。
人口が減り、需要が減ることで売買価格としての価値が下がっているだけです。
反対に東京などの都市部では今でも地価が上がっています。
これも経年劣化とは関係なく、需要の高さから土地の売買価格が上昇しているだけです。
不動産投資で、減価償却を土地と建物に分ける理由はここです。
つまり、土地の価値は下がらず(減価償却しない)、建物だけが価値が下がる(減価償却される)ため減価償却は土地と建物を分けて考えましょうねということです。
償却期間10年の不動産を1,000万円で購入して、土地と建物の価値の比率が50対50だった場合、土地500万円、建物500万円に資産は分かれます。
減価償却できるのは建物だけで、経費計上できるのは「500万円÷10年=50万円」ということになります。
物件購入時に収支シミュレーションをする場合は、購入金額を土地と建物に分けてから計算するように注意しましょう。
土地と建物の分け方
ここで疑問に思うのは「購入金額を土地と建物にどうやって分ければいいのか?」ということでしょう。
結論から言うと、税務署に合理的な説明ができるのであればどんな分け方でもOKです。
先ほどの計算でわかるように、建物に多くの金額を振り分けたほうが減価償却で経費にできる金額が多くなります。
1,000万円の不動産を購入したら土地1万円、建物999万円としたほうが経費を計上できます。
しかし、このような極端な分け方では合理的な説明ができないため、税務署に却下されるでしょう。
1万円で買える土地というのは現実的にはありえませんね。
「じゃあ合理的な説明ってなに?」と思うでしょう。
個別の案件では、税理士などの会計のプロに相談するのがベターです。
一般論でいけば、以下のような方法を採用すればよいでしょう。
売主が企業の場合は、土地と建物の値段を分けている場合があります。
購入時点で値段が決められているので、この方法がもっとも合理的です。
購入時に金額が決められていない場合は、路線価を利用します。
土地の値段は、「路線価×土地面積=土地の値段」という決め方が出来ます。
1,000万円で購入した不動産の土地の価格が、路線価から計算したら700万円だっとしましょう。
この場合、建物の価格は「1,000万円-700万円=300万円」です。
「もう少し建物の価格を上げたいな」と思ったら、税務署に説明できる範囲で増額することも可能です。(却下される可能性もありますが)
不動産の減価償却は、土地と建物に合理的な方法で金額を分ける必要があります。
土地は経年劣化で価値が低下することがないと考えられているため、減価償却で経費を計上することができません。
減価償却の計算をする際は、土地と建物に価値を分けるのを忘れないようにしましょう。
減価償却のポイントまとめ
不動産投資で必要な減価償却のポイントを紹介してきました。
ポイントをまとめてみましょう。
ポイント①
減価償却とは不動産購入時に支払った金額を複数年に分割して、経費として計上する仕組みのことです。
ポイント②
分割する年数は法律で決められています。
建物の構造と築年数によって計算しましょう。
ポイント③
不動産は土地と建物に分かれます。
土地は経年劣化によって価値が低下することはないので、減価償却で経費に計上することができません。
合理的な方法で土地と建物の比率を決め、建物だけを経費に計上できます。
減価償却の計算例
せっかくなので、減価償却の計算例を示しておきましょう。
次のような物件で考えてみます。
まずは減価償却する年数を計算します。
築30年のRC造の不動産は償却期間が23年ということですね。
次に購入した不動産を土地と建物に分けます。
今回の例では、路線価から算出した土地の価格が3,000万円です。
「7,000万円-3,000万円=4,000万円」
建物の価格は4,000万円ですね。
最後に毎年計上できる減価償却の金額を計算しましょう。
「4,000万円÷23年=174万円」
どうですか?難しくはないですね。
減価償却をシミュレーションに反映するときはこのような計算を行ってください。
追伸:減価償却は魔法の経費?
「減価償却は魔法の経費です。減価償却を上手に使って節税しましょう」
という言葉を目にすることがあります。
お金が出て行かないのに、経費を計上できると。
私はこの考え方が嫌いです。
というか、この考え方は間違っていると思います。
ここまで読まれた方は理解できたと思いますが、減価償却とは魔法の経費でも何でもありません。
お金を払ってないのに経費に計上できるわけでもないです。
実際は、購入時に一括で支払ったお金を複数年に分けて経費に計上しているだけです。
1年目に1,000万円の支払い(お金が出て行った)があったにもかかわらず、向こう10年の間に分けて経費に計上しなければならないだけです。
5年目は10年目の自分からしたら、確かにお金は出て行ってないのに経費だけ計上できるような気もしないではないです。
しかし、実際のところは初めに大金を払った分の経費が数年後にようやく計上できているだけです。
魔法の経費のように感じられるのは、不動産を購入するときに借入をしているためでしょう。
1,000万円の不動産を、900万円の借入を行って購入したとします。
この時、支払った金額は残りの100万円のみです。(諸経費は計算から省いています)
100万円しか払ってないのに、毎年数十万円の経費が計上できるので、魔法の経費と勘違いする人がいるんでしょう。
実際は、銀行への返済にお金を払っているので、その分の一部が減価償却として経費になっているにすぎません。
最後に何が言いたいのかというと、
という営業トークに騙されて不動産投資を始めないでください、ということです。
減価償却は魔法の経費ではないです。
それだけでは節税にはならないので注意してくださいね。
(もちろん、減価償却を使った賢い減価償却の方法もありますが、それはまた別の機会に)