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【感想】ミュージカル 七色いんこ
ミュージカル「七色いんこ」東京公演を観てきた。2018年に上演されたものの再演で、当時スケジュールの都合で行けなかった私にとって逃せない機会であった。
原作がまずとても好きな手塚作品であるからなのだが、加えて今回は宝塚歌劇団出身の七海ひろきと有沙瞳が主演というではないか。このところ足が遠のいてはいるが、七海氏は私がもっともヅカにどっぷりだった頃に飛躍的な活躍を遂げた人物なのである。
具体的に言うと2012年の「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」でミッターマイヤーを演じられていたのが初めて彼(?)を認識したタイミングだった。蓮水ゆうや演じるロイエンタールとの双璧がチョ~~好きで……。ってのはさておき、(おそらく)当時から一部で定評を得ていたのは彼の巻き舌である。七海ひろきの「ら行の発音」にアイデンティティを感じる者も少なくない(と思っている)が、これが今回の公演アフタートークでの伏線になるとは思ってもいなかった。
脚本の構成としては、基本的に一話完結型となっている原作エピソードの中からいんこや千里刑事の生い立ちに関連する部分をより抜いてギュギュっと凝縮したようなものとなっていた。台詞もそのまま原作から使われたものが多く、思わずニヤけてしまうことに事欠かない。
主演二人から醸されるヅカの残り香とコメディー色の強いアドリブ満載ドタバタ感が合わさって、すごく新感覚であった。お芝居でこんなに笑ったの初めてかもしれないというくらい楽しませてもらって、それでいてシリアスなシーンもしっかり描かれていて思わず目が潤んでしまう。なにより、舞台化にあたっても物語の軸となっている「いんこが『演じる』ことの意味」がブレずに表現されていることが本当によかった。もちろんミュージカルの醍醐味である歌や踊りも素敵なものばかりでした。
…とまあ全体的な感想はざっくりこんな感じで、あとは個人的に好きだったところや細かいシーンについて箇条書きしていこうと思います。思いつくまま書いているので順番がバラバラなのはお許しを。以下、ネタバレ有りの感想となりますのでご注意ください。
いんこ、三枚目な面は封印気味だったけどしれっとツッコミに回ったりしていたのがツボであった。スンッとすましているのにどこか抜け感も併せ持っているところがいんこ!なんだろう、七海氏だからできる雰囲気があるよね。ハムレットリハーサル中に千里刑事を抱きとめるときの仕草が男役のそれで大変コーフンしました。じっちゃんとのしょうもない長いやり取りも本当好きだ。いんこに心を許せる人がいる人が嬉しい(なに心?)。チルいね~。
有沙瞳ちゃんの千里刑事、パワフルでモーレツにキュートだった。現役時代あんなに暴れてるの見たことないよ!小田原君まで倒しちゃうとは思わなんだ。チャキチャキした物言いとか素直なところ、実は乙女なところとかが見事に体現されていた…。アレルギー発症のときの座り方まで完璧。
いんこが喫茶店で、原作と違ってコーラを飲むのがルーティンなのは終盤になって あっ…!て思った。なるほどなるほど。ストーリーとは関係ないけど、七色いんこは喫茶シーン多いのも好き。
お店のシーンやありとあらゆる場面で白い服がたくさん掛かったラックが使われていたのが印象的だった。あるときにはカーテンや部屋の室内表現に、またあるときにはスクリーンとして映像を映し出す。限られた道具と場所でいかに表現するかというのも見どころですね。
郷本直也さんの隆介パパはより掘り下げて描かれていて、単なる絶対的な悪役ではないのだという印象を持った。(コミカル担当でもありそういう意味でも単なる悪役ではないのだが…!)台詞の前に「フンッ」て言うのがなんだかクセになる。
トミーがさ、終幕でトミーとして登場する前から髄所で登場してるんだよね。ある時は隆介の隣で観劇していたり、小学生の中に混じっていたり(だったよね…?記憶ちがってたらすみません)。名前も無く、台詞も無く、それでいてモブとは違う異質な出で立ちでそこにいる。すべてを眺めている。それがなんか、本当にピエロとして全うしている感じがしたのだよ…。終幕のトミーもめちゃくちゃリアルで英語と日本語の切り替わりに全然違和感が無かった。
「青い鳥」は大筋はそのままに、犯行は車ではなくAIロボットによるものとなっており、より現代人にとって身近でリアルな話になっていたと思う。車の中のアレコレは無かったんですけど、なんかある意味ホッとしました。いや全然なんでもないです。
我利屋~!生意気な感じが出ててほんと我利屋。主人公たちを差し置いて隣でわちゃわちゃしてる小学生おじさんズに「うるせえなぁ!!」とツッコミに行くのがめちゃくちゃ面白かった。最後大人我利屋も出てきたね。一緒に居たのヨーコだった…?ガリヨコの可能性!?記憶が錯綜しているためこれまた違ってたらすみません。
おじさんといえば、高木トモユキさん演じる千里警部のターンがちょこちょこあるのが嬉しかった。上司として、父として悩める男という要素がより強まっていてよいですね…。あとお顔とか体格とかの外見も、(スタシスでいうところの下田警部の)面影を残しつつイカしてて今回一番ハートを射抜かれたかもしれない。
古武良先生!あのアブナイお人もちゃんと出してくれるんですね。さすがに女王様の格好はしなかったけど。ただでさえ濃すぎる内容なのでこれ以上観客を混乱させないためにもマイルド外見になってて良かったのではと思います。性格はしっかり残してくれましたのでね!
あと強めのネタバレになっちゃうんですが、陽モモと七千、鍬潟親子と朝霞親子が台詞の掛け合いでや立ち位置で対の存在だと観客に伝える演出が舞台ならではの見事さだなぁと感じた。上手く説明できないけど…伝わってくれ~~!!
というわけでいつも感想系は肯定的になりすぎるくらい全肯定マンなんですが、きっと見た人は楽しくなれる作品だったと思います。しかもほぼ全公演にアフタートークやデュエットショーなどの特典付きという太っ腹さ。
私が観た公演はアフタートークとお見送り会付きで、トークでは七海氏曰く、「千里刑事の役を稽古し始めた有沙瞳ちゃんの言葉がどんどん荒くなっていった」らしい。「どんな感じで?」と聞かれた七海氏は瞳ちゃんのマネをし「ひるぉきさん」と巻き舌を披露したのだった。
…ハイ、これが冒頭で言ってたやつです。たったそれだけですけど私はまた氏の巻き舌が聞けてよかったと思ったし、稽古中の二人が楽しそうな様子で嬉しかったよ。
陽介役の土屋直武さんがキレキャラになったのも面白かった。陽介としていんこをぶち抜いてやる!という役者魂な話も聞けて、改めて演劇って奥深いなぁと「七色いんこ」という演目を通しても、役者さんを通しても感じました。
お見送り会ではトークに出演の郷本さん、高木さん、七海氏、土屋さんが舞台上に腰掛けて退出する観客ひとりひとりに目を合わせ手を振ってくれるのだ!なんというサービスだろう、普通に数十センチ先に彼らがいる。バグっているな…と思いつつ全力で手を振った。あんなに近くで見ても全員綺麗なのどういうこと??人の目見るの苦手なんですが、またとないチャンスなのでバチバチに目を合わせちゃいました。
繰り返しになりますが再演本当に嬉しいです。ネルケが過去に上演した『リボンの騎士』や『虹のプレリュード』も行けなくて悔しい思いをしたのでこちらもぜひ再演してほしい!
今回のミュージカルで『七色いんこ』に興味を持った方にはぜひ原作も読んでみてほしいと思います。一話一話がサクッと読めるし、いんこの弱点というか人間らしいところも見られるので…!
また書きたいことが出てきたら追記するかもしれませんが、ひとまずこれにて。自分本位な乱文にも関わらず読んでくださりありがとうございました。