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地主純さん - 旅を仕掛ける人
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日本の隅々まで、ファンを増やしたい
幅広い政策分野を所掌することに惹かれて、国土交通省に入省しました。そこで観光・復興関連の仕事をしてきたことが、今回の日本政府観光局ロンドン事務所(JNTO)への出向につながったのだと思います。
私たちの仕事は、日本をプロモーションして、ヨーロッパからの観光客を増やすことです。日本の宿泊施設・旅行会社・観光協会などが英国の事業者とネットワークを築くための支援や、英国メディアに日本を紹介してもらうための情報提供や、SNSを通じた情報発信などを幅広く行っています。
日本をプロモーションするというと、まず「桜がキレイ」「寿司がウマイ」というような切り口が浮かびますが、誰もが知るそのような情報は、皆に安心して喜んではもらえるものの、インバウンドの裾野を広げることにはつながりません。より多くの人を惹きつけるのは、もっと具体的なものごとです。
全く知らなかった生々しい情報を突きつけられると、「なんじゃそりゃあ!」と驚き、興味を持ってくれる人はたくさんいます。そうして日本の隅々までファンを増やしたいのです。
たとえば今は、Japan House Londonとのタイアップで「Spotlight on Local Japan」というプロジェクトを進めています。
・募集内容:芸術、工芸、デザイン、食、技術などを含む様々な分野で日本の地域の知られざる魅力を紹介するイベントアイデア
・応募資格者:日本の地方公共団体、観光協会、DMO、民間企業等
・提案募集期間:2023 年5 月31 日~11 月30 日
・イベント実施時期:2023 年度または2024 年度
ジャパン・ハウスは、ケンジントンストリートの素晴らしい立地にある洗練された情報発信拠点ですが、在英組織なので「日本にある、何か面白いもの」を取り上げたいと思ってもネットワークを持っていません。そこで私たちが、日本の地方との架け橋の役目を果たします。任期の限られた立場できているからこそ、貢献できることはたくさんあります。
観光に関わる人たちの共通の思い
そもそも日本が海外旅行の目的地として認識され始めたのは、ここ10年ほどのことです。2013年に1,000万人だったインバウンド観光客は、2019年には3,180万人と約3倍に増えました。多くの欧州人にとって、日本はまだ「ファー・イーストのよくわからない国」なのです。
日本のプロモーションに携わる皆さんの話を聞いていると、もちろん「観光産業が伸びるから、数字が見えるから」やるのだということもありますが、それ以上に「日本のことを知ってもらいたい」というシンプルな思いが根幹にあると感じます。
世界の人に、自分の国を「いいね」と言ってもらいたい。するとますます、見せるべきは、一般的な情報よりも「ここのこれがいいんだよ!」という具体的な情報が中心になってきますよね。
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私が思う、旅の面白さ
学生時代から旅が好きでした。はじめて外国に行く時、まずは大きな街(例えば、英国ならロンドン)に行きますが、それだけでは知っている情報の確認作業に終わってしまいます。でも、少し郊外に足を伸ばすと色んな発見があります。それが、本来の旅の面白さだと思っています。
今は、アイルランド、オランダ、イスラエル、スイスや北欧など、管轄下の近隣諸国へ出張で行く機会が多いのですが、仕事なのでほとんど観光できないのが残念です。本当なら、それぞれの田舎に足を運んで、なんだかよくわからないものを見てみたいところです。
時間のある週末には、郊外を散歩します。先日はエリザベス・ラインの終点のReadingという街に行ってみました。観光地ではありませんが、ヘンリー8世がぶっ壊した古い修道院があり、18世紀に拓かれた水路がブライトンまで続いていて…かつて、王党派と議会派が取り合いをしたテムズ川の中継地点なのです。英国の街には古いものがそのまま残っているので、歩くとその土地のなりたちが見えてくるのが面白いですね。
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自分から飛び出し、チャンスを探す
ロンドンに来た当初は、何をするにも初めてのことばかりで大変で、限られた任期の間に自分に何ができるのかと途方にくれました。でも、実は英国で働く日本人は少ないため、祖国とのネットワークを持つことが強みになり、他の人ができないと思っていることをできるようにするチャンスが多いことに気がつきました。
特に、観光関係の仕事には決まった事が少ないので、積極的にリスクをとっていかないと良い結果が出せない側面もあります。だからこそ、私は内輪で完結しないように心がけ、赤門学友会でもそれ以外でも、いろんなところに顔を出すようにしています。
あと1年の任期ですが、ロンドンの街のどこかで見かけたら、ぜひ声をかけてください。