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もう一度、愛したくて
新婚のころ、彼らは確かに幸福の絶頂にいた。
眩しい笑顔の妻、そして彼女を見つめる夫の眼差し。
あのころの二人は、手をつなげば無限の可能性が広がっていると信じて疑わなかった。
しかし、そんな二人を引き裂く出来事が突然訪れた。
夫の長期出張の辞令。
驚きと不安に揺れる妻をなだめるように、夫は「すぐに帰るから、少しの間我慢してくれ」と語りかけた。
それが、二人の歯車が狂い始めるきっかけになるとは、まだ誰も気づいていなかった。
夫は出張先での事業に懸命に取り組んだ。
しかし、思い通りには進まず、焦りと不安が彼を蝕んでいく。
夢見ていた妻との再会は遠のき、心は徐々にやつれ、手に取るのは酒ばかり。
日に日にアルコールの割合が増え、妻への連絡も疎かになっていく。
彼の手の中のスマホに妻からのメッセージが届く度、返事をするのが怖くなっていった。
「今さら何を言えばいいのか……」
そんなある夜、彼は行きつけの飲み屋で一人の女性に出会った。
女性の何気ない言葉が、彼の中で押さえ込んでいた感情を刺激した。
「あなた、無理してない?」
その問いに、夫は虚ろな笑みを浮かべながらグラスを傾けた。
そして、その日から、彼は飲み屋の女性との関係に足を踏み入れてしまう。
それから彼の生活は一変した。
次々と別の女性たちへ手を伸ばし、自己嫌悪に苛まれる暇もないほど日々に溺れていく。
気づけば、妻の存在は頭の片隅で薄れつつあった。
彼の中で何かが壊れた音が聞こえるようだったが、それを無視することで自分を保っていた。
一方、夫のいない新婚生活に、妻は次第に孤独を感じ始めていた。
寂しさは日に日に募り、彼女の精神状態を蝕んでいった。
「夫は私を忘れてしまったのかもしれない……」
その不安は、やがて深刻なうつ病へと彼女を追い詰めた。
孤独な夜を何度も過ごし、気づけば幻覚まで見るようになっていた。
愛する人が手の届かない場所へ行ってしまったという絶望感が、彼女の心を引き裂いていた。
そんなある日、夫はふと立ち止まった。
「俺は、一体何をしているんだ……」
不特定多数の女性との行為に溺れながらも、胸の奥で消えていなかった妻への想いに気づいたのだ。
「あの頃に戻りたい、妻のもとへ帰りたい」
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