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被害者はランドセル

学級委員をやることは僕にとっては喜びだった。しかも、立候補ではなく推薦されて仕方なくやってやるか風な形で任命されることで悦に浸っていた。

小学校の高学年くらいだっただろうか。
あの頃は思った通りに物事が進んでいた気がして、何も怖いものなんてなかった時代だ。
 
友達を作るには面白いことを言って笑わせまくると良い。

10歳にしてダウンタウンを筆頭にお笑いが大好きだった僕は、どうやら同年代の中では言葉選び、リアクションという類のスキルに長けているようだった。
周りに熱心なお笑いファンはいなかったので、芸人の言葉をそのまま引用してもバレることはなく、さも自分のセンスが良い風に笑いを取っていた。
 
女子からモテるには優しくしてスポーツで目立てば良い。

これは3つ上の中級レベルのオタク兄が少女漫画を集めていたおかげかもしれない。普通の小学校高学年の男子なら、あの淡いピンク色のリボンコミックスを開こうともしないだろう。だが、その行為は悪手だ。
少女漫画というものは「少女の憧れる男のカタログ」のようなものだ。
もちろん答えは一つではないが、僕が分析する限りでは、女子にちょっかいを出す男はモブキャラで、主役の男は王子様のように優している割合が多かった。それを実行していた。
バレンタインの日に下駄箱にチョコレートが溢れるなんて漫画みたいなことはなかったが、おかげさまで当日にチョコをもらえるか心配になるようなことはなかった。
 
先生に褒められるためには、やるべきことを率先してやればいい。

それが真面目で良い子の定義だった。
僕はこの「率先してやる」を先生の前だけ意識して、友達の前では気楽にやろうぜと面白さを重視して使い分けていた。

過去を思い出して書いているが、大人になってじゃら客観的に評価すると虫唾が走るほど憎たらしいガキである。

しかし、現実の評価はありがたいことに上々だった。
通信簿には賞賛と呼んでいいほどの言葉の羅列がびっしりと埋め尽くされていた。母と飲みに行くとこの通信簿のコメントをしみじみと思い返して僕に報告をする。つまり、自分の息子を目の前にして、自分の息子を自慢をするという暴挙に躍り出る。
そして満更でもない僕。二人して息子自慢を肴にして生ビールを仰ぐ。

というように、全てではないが、「相手にこう思われたいな」という欲望を叶えるための「じゃあこうした方がいいな」という実験が気持ち良いほどフィットしていた。
なんというか人間関係のゾーンに入っていたのが小学校高学年時代だ。
 
つらつらと過去の自慢を続けたいわけではなく、こんな子供に突如訪れる心情の変化を体験談に沿ってお届けしたいというのが本題だ。

学校生活において、友達、異性、先生、という三本柱を攻略したガキは何を思うのか?

僕が次に欲しがったのは「悪さ」だった。

簡単に言えば不良に憧れたのだ。
男の子は一度は通りそうな「あるある」に属する感情かもしれない。
とは言え、優等生というせっかく築き上げた地位をひっくり返すような行動は取りたくない。というか、そんな勇気もなく取れない。

どうにか褒められながら、不良っぽい行動を取れないか悩んだ。

しかも自己満足ではなく、
「お、こいつはただの優等生ではなく不良っぽいとこあるな」
と周りにも思わせたい。
でも、優等生で先生に賞賛の言葉をもらって母にも心配かけず褒められたい。

僕はこのクライアントと下請けの板挟みによって生まれた奇跡の無茶振りのような要求を自ら課した。
おそらくこの瞬間はどの小学生よりドMになっていたことだろう。

そうして小さな脳みそを捻り切れるほど捻り出した答えが
「ランドセルをボコボコにする」
ということだった。

というのも、僕のランドセルは小学校5年生にしてピカピカのツンツルテンだった。不良がそんなランドセルを使ってる訳が無いのだ。なんだったら周りの友達の方が良い感じに汚くて不良っぽくて羨ましかった。
そう比較してしまうと、なんだか黒光りしたランドセルが無性に恥ずかしくなったのを覚えている。

本来の第一候補は手に何かしらの傷を追わせて包帯を巻いて登校することだった。(とある少女漫画の男主人公に憧れた影響)
しかし、そんなことしたら母に心配させてしまうのが目に見えている。大事|《おおごと》になってしまう。何より痛い。そんな勇気は一ミリも持ち合わせていない。

そうして非常に残念なことにランドセルが犠牲になった訳だが、いきなり大きく汚してしまうと、誰かにやられたのでがないかと、イジメの可能性を示唆してしまい、これまた母を心配させてしまう。絶対にそんなことはしてはいけない。
だから僕は、少しずつボコボコにしていった。

あるときは、ジャンプして全体重を載せたエルボーを背面にズドム。
あるときは、誰も見ていないことを確認してから階段からドンガラガッシャン。
あるときは、鞄の下に付いている回すタイプ留め金を高速で何度も開け閉めしてカシャカシャと負荷をかけた。

その苦労もあって、母にバレずに周りの友達レベルでランドセルを不良仕様にすることができた。
僕はとても満足した。
もはや不良っぽく思われたいとかはどうでも良くなっていた。早く新入生のようなランドセルとオサラバして、みんなと同じようにチョット汚れたランドセルにすることが目的になっていたのだ。

無闇やたらに物を傷つける行為を自慢げに語る気はない。反省すべき行動なのは間違いないのだが、我ながらアホだったと思えるエピソードの一つだ。

自分の子供が、急にランドセルの留金を狂ったようにカシャカシャやり出したらぜひ参考にしていただけたら幸いだ。
 
 
 
  
 

 
 

 

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