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一日一頁:村上靖彦『「ヤングケアラー」とは誰か 家族を”気づかう”子どもたちの孤立』朝日新聞出版、2022年。

「ヤングケアラー支援の眼目は、どんな子どもも親も孤立することがないコミュニティをどうすればつくることができるのか、誰もが安心して集う居場所をどのように生み出すかという極めてシンプルだが現代の日本では難しい課題に行き着くのではないだろうか=あとがき。

卓越した聞き書きは、「安全」や「安心」といった言葉の熟慮を迫る。著者の専門は現象学。ケアを接続する21世紀の現象学に新しい可能性を感じている。

 〈沈黙したケア〉というものがありうる。死に瀕している人の生命を肯定し支えることではなく、語ることができない人の苦痛を慮ることがケアになる場合があるというのだ。
 兄の苦しさを見出すことは、「自分だけはそれはできていた」と、兄の思いを汲み取り兄を尊重すること、あるいは兄自身の存在を回復することでもあろう。英語の「ケア」とは、もとは「気づかう」「慮る」「心配する」という意味の動詞である。その原義に当てはまる仕方で麻衣さんが兄の苦痛を慮っているのは間違いない。
 ケアとはまずは慮ることであり、ヤングケアラーとはまずは家族を慮る子どものことである。そしてこの「慮る」ことは、周囲の大人たちが「生き返ってほしい」という願いを投影して「あいつは生きようとしてる」と兄の思いを創作しているなかで、兄自身の思いを尊重しようとするケアとなっている。

村上靖彦『「ヤングケアラー」とは誰か 家族を”気づかう”子どもたちの孤立』朝日新聞出版、2022年、64頁。


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氏家 法雄 ujike.norio
氏家法雄/独立研究者(組織神学/宗教学)。最近、地域再生の仕事にデビューしました。