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【134】真鶴岬のトンボロ現象とヒルダ・ルイスさんの「飛ぶ船」の話 2023.4.21
1 目的地は真鶴岬三ツ石
4月21日に神奈川県真鶴岬に行ってきました。
東京方面から行けば小田原で国道1号線から135線に入りJR真鶴駅前で左折して真鶴半島の突端まで行けば真鶴岬に着きます。
岬の標高は58mで、そこから急な石段を下っていくと、大きな石がゴロゴロした三ツ石海岸に出られます。
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正面に見えるしめ縄の張られた岩山が三ツ石で、ここは満潮時には隠れ、干潮時には道が現れて渡ることができるというトンボロ現象の起きる珍しい場所だそうで、一度見てみたいなと思っていた所なのです。
事前に真鶴の潮見表を調べて大潮の21日に決め、干潮で潮干狩りに適する時間が09:12~13:10ということでしたので、12時ころまでには着くつもりだったのですが、出がけに少しバタバタして海岸に着いたのは12時30分頃でした。
海上の道が姿を現して三ツ石まで続いているのを確認して進み始めました。道の長さは400m強と言ったところなのですが、岩がゴロゴロしていて、これが滑るし時にグラグラする不安定な石も混ざっているので歩きにくいことこの上ないのです。
転ばないように時には四つん這いになったりしながら進んでいき、途中水際まで行って綺麗な水の中の海藻やヤドカリなどを見たりして道草しながらゆっくり進んでいき、ようやく道半ばを過ぎたくらいまで来たところで三ツ石の写真を撮りました。
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2 潮が入ってきた
そろそろ満ち潮の時間も終わりかけているし真面目に進まないとたどり着けないぞと思いながら写真を撮っていた時、ふと辺りで水が光るのに気付いたのです。
「あれっ」と思い、辺りをよく見るとに岩の間にひたひたと海水が入ってきていたのです。
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いつの間にか潮が満ち始めていて、見渡すと道の両側から打ち寄せる波が入ってきていたのです。
見ると大きめの岩の上に水が溜まっていました。
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ということは潮が満ちた時にはこの岩の上まで水が来るということで、そうなったらかなりまずいんじゃないか、これはこの先三ツ石まで行くどころか早く戻らないと水に漬かってしまうぞ。
ということであわてて引き返すことにしたのです。
3 転倒してしまった
けれど、こういう岩場で焦るのは禁物でした。つい確認を怠ってあわてて体重をかけた石がぐらっと転がり、足を滑らせてバランスを崩した私はよろめいて後ろ向きに倒れ、やばいと思った瞬間に左のお尻を、次にに背中を岩に息が止まるほど激しくぶつけて倒れこんでしまったのです。
「やっちまった、もしどこか骨でも痛めていて動けなくなっていたらどうしよう」と思いながら一呼吸二呼吸し体の状況を見て、次におそるおそる手足に力を入れてみて、なんとか動くのを確認、少し休んでいたいところではありましたが、潮が来ているのです。こんなところで寝ている場合ではありません。無理して立ち上がると、一足ごとに激しく痛むお尻をかばいつつ岸まで這うようにしてたどりついたのです。
携帯は持っていましたが、後でわかったのですが岬周辺は圏外でした。ほんとうに動けなくなっていたら相当にまずい状態になっていたかもしれませんね。
4 沈み始める海の道
石段を脂汗で登っていき、途中の展望のよい所から一休みしながら海の道を振り返りました。
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潮干狩りに適する時間帯を10分過ぎました。写真では全体的には海上にでているように見えますが、見ていると道の真ん中辺りに左右に横切る溝みたいな部分がありますが、その辺りに両側から波が打ち寄せかなり奥まで入りこんでいくのでした。
拡大するとその一帯が水に漬かり始めていることが解ります。
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潮が満ちるのは早いですね。
私はここまで見たところで帰途につきましたが、ネットで満ち潮の時の写真を探したら下の写真が見つかりました。
満ち潮で帰れなくなり三ツ石に取り残される人が結構いるという話がうなづけます。
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5 辛かった帰り道
駐車場まで歩いて車に乗り込んだのですが、座席にお尻のぶつけた所が当たるととんでもなく痛くて、直接当たらないようにタオルを入れたりお尻を少しでも浮かせる姿勢を工夫したりしながら帰りましたが、延々細くて急傾斜な山道を通るので振動ではねてお尻が当たるともうとても痛くて脂汗じっとりでした。
しかもスマホの電池が切れかかっていて、そこら中で分岐する山道の途中でナビが切れたら100%道に迷う、さらにガソリンも残り少なくなってアラームが出るという状況が重なってしまいハラハラドキドキ、なんとかぎりぎりどちらも足りて帰りつくことができましたが、こういう時って時間が中々進まないですね。延々と長く感じる苦しい帰途になりました。
流石に、この時はブルックナーを聴くどころではありませんでした。
まあでもかなりひどい打ち身にはなり、27日現在の今も痛いのですが、骨には異常がなく動けなくなるところまではいかなかったこと、頭まではぶつけずに済んだことが不幸中の幸いでした。
この海岸の岩が角が取れて丸くなっており尖っていなかったことがよかったのでしょうね。
6 「飛ぶ船」のお話
ところで「飛ぶ船」という本をご存じですか。ヒルダ・ルイスさん作、石井桃子さん訳の岩波少年文庫に収められている児童書です。
この本の冒頭で、親の付き添い無しに一人で歯医者にかかるために街に行くことになったピーター少年は歯医者の後、船の玩具を探していて、以前に見かけたことのない古びた通りに迷い込み、薄暗い小さなお店の中の木のテーブルの上に置いてあったちいちゃな船に出会うのです。小さいけど精巧ににできているこの船にすっかり心を奪われたピーターはそのお店に入り、きっととても高いのだろうなと思いながら片目に黒い眼帯をしたとても年を取った老人におずおずと値段を訊くのです。その値段はピーターが玩具を買うかもしれないと思って持ってきていた貯金全部とお茶を飲んできなさいともらったお金、それに帰りのバス代までを足したちょうど全額の値段だったのです。それにもしも行きのバスでうまく往復キップを変えていたら割引になっていたはずの5円は後でお父さんに返さねばならなかったのでピーターは自分の全財産+5円という値段でその船を買ったのです。
帰りのバス代を使ってしまったのはとても困ったことで、ピーターは浜伝いに行く近道を思い出し、そこを通って帰ることにするのです。
ところがこの道は満ち潮になると海に沈む道だったのです。干潮が終わり、家へ急ぐピーターに潮はひたひたと押し寄せ、もうピーターの足を洗おうとしています。ピーターは怖さのあまり「ああおうちへ帰りたい。」と叫ぶのです。するとポケットの船が大きくなりそれに乗り込んだピーターは家まで空を飛んで帰ることができたのです。
実はこの船は「スキードブラドニール」という北欧神話に出てくる自分の全財産とプラスアルファを投げ出さないと買うことはできない魔法の船だったのです。片目に眼帯をかけた老人は神々の王オーディンその人だったのでした。ピーターと兄弟たちはその後この船を使って世界の色々な所に行ったり、古代エジプトなど過去へ飛んだりして冒険するのです。
この本は石井桃子さんの訳も素晴らしくて、私はこのお話が大好きでした。こんな船に出会うことができたら本当に欲しいです。でも全財産と+アルファ、投げ出せるかなあ?
単なるハッピーエンドでは終わらない読後の後味もよく、小学校の中高学年くらいのお子さんと昔子供だった大人にも絶対のおすすめです。
この本の中でも、ピーターが浜伝いの道で満ち潮に絶体絶命になる胸が締め付けられるようなシーンはすごく印象に残っていたのですが、今回三ツ石でその時のピーター少年の気持ちがほんの少しだけ体験できたのはうれしかったことでした。
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*この本を読んで面白かった人は、その後北欧神話も読んでみるといいですね。「飛ぶ船」の中にも出てくるオーディン、フレイ、トールやローキーといった神々、世界樹イッグドラジールという大トネリコの樹、神々の黄昏ラグナロク、オーディンはなぜ片目を無くしたのか、フレイの船「飛ぶ船」はいかなる船だったのか、ラグナロクはどのように来たるのか、北欧神話は世界に数ある中でも一番と言っていいくらい面白い神話だと思います。