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【269】心打たれる音楽の話:山崎ハコ「飛・び・ま・す」 2025.1.27


1 山崎ハコさんの「飛・び・ま・す」

 「飛・び・ま・す」は1975年10月1日にエレックレコードからリリースされた山崎ハコさんのファーストアルバムである。
 しかし、このアルバムを知っている人は今どのくらい居るのだろう?

 自分自身、すっかり忘れてしまっていて、もう数十年も聴くことがなかったのだが、最近たまたまハコさんの曲に出合うことがあって一気に思い出が蘇ってしまった。

 僕がこれを最初に聞いたのは会社に入って間もない頃、独身寮に居て、寮長をしていた先輩の部屋で聴かせてもらった時のことだった。

 そして、その時、「山崎ハコが好きなんだ」といった先輩がじっと聴き入る後姿、一緒に聴き入った自分のことも思い出してしまった。

 落ち込んで、生きてることが辛くなった時は、明るく元気な曲を聴くよりも暗い曲を聴いた方が癒されるのだと聞いたことがある。
 
 山崎ハコの音楽が真直ぐに心に刺さった先輩も自分も、その頃、何か鬱屈を抱えていたのかもしれない。

2 「飛・び・ま・す」から

 言葉を重ねるより、「飛・び・ま・す」の中から僕の好きな曲を何曲か紹介する。聴いてみて欲しい。 

1 望郷

2 かざぐるま

3 サヨナラの鐘

4 気分を変えて

5 飛びます

3 山崎ハコさん

 暗い怖いという事では当時森田童子と双璧と呼ばれていた山崎ハコ、
 大分県の日田市出身の兼業農家に生まれ、中学卒業後横浜に転居し音楽活動を始めたという山崎ハコさんのこのアルバムは、一度聴いたら忘れられない強烈なインパクトを与えるものだと思う。

 このアルバムの後にも佳曲は勿論多々あるのだが、やはりこのアルバムはハコさんの最高傑作だと思えてしまう。

 山崎ハコさんは表舞台でというより、深い所で根強い支持を受け、拡がって行ったが、1980年代後半に入ってイケイケのバブルの時代が始まると、こんな暗くて重い唄は見向きもされなくなり廃れてしまった。

 けれど今の時代に改めて聴いてみるとやはり力のある音楽であり、失ってはいけない音楽だと思う。

4 子守唄の歌詞のすごさ

 アルバムの最後は「子守唄」という曲で閉じられる。

 一例としてこの曲の歌詞を見て欲しい。

 ねんねんころり ねんころり 酒に酔ったら夢を見な
 遠いあの日の夢を見な 今ではきれいな夢になる

 ねんねんころりねんころり 嫌なことでもあったみたいね
 私は何もできないから オンボロギターで歌ってあげるね

 ねんねんころりねんころり 考えこむのはよくないわ
 せっかくの酒よ  美味しく飲まなきゃ かわいそう

 ねんねんころりねんころり いつの間にやら眠ってる
 今日の夢は何かしら 別れた人の夢 かしら

 ねんねんころりねんころり  男の人はかわいそう
 泣きたくたって 泣けないの 夢の中では 男泣き

 ねんねんころりねんころり 酒に酔ったら夢をみな
 遠いあの日の夢をみな きれいな夢になるように

 18歳の時にリリースされたこのアルバムの、曲を作ったのは高校生の時だという。高校生の少女からどうやったらこんな歌詞が出てくるのか?
 一体彼女はどんな精神生活を生きていたのだろう、空恐ろしい想いがする。 

5 望郷歌の謎

 最後にもう一曲、すごい唄を載せる。
 1977年9月13日に大阪サンケイホールで行われたライブアルバムの中に入っている「望郷歌」である。

 これも凄いが、自分としては1977年11月のNHKスタジオライブだというギター一本で奏される下のバージョンの方がよりストレートに深く刺さる気がしている。

 この曲の歌詞を下に載せる。

 つくつくぼうしなぜ鳴くか 親もないか子もないか
 たった一人の女の子 館に取られて今日七日
 七日と思えば十五日 十五のお山へ花を折りに
 一本折っては腰にさし 二本掘っては手に持って
 三本目には日が暮れて

 館と思えば何のこと さだめも知らずに歌ってた
 十五の今日を祝おうか
 一日前には野の花で
 一日後には館花
 三日もすれば花じゃない

 つくつくぼうしなぜ鳴くか 親もないか子もないか
 つくつくぼうしなぜ鳴くか つくつくぼうしなぜ鳴くか
 つくつくぼうしなぜ鳴くか つくつくぼうしなぜ鳴くか
 つくつくぼうし

 何処の民話のようなこの哀切な悲歌は、漠然と日田地方に伝わるものなのかと思っていたが、説明を見ると、北条民雄という作家の「望郷歌」という作品の中で、子供たちが歌う歌だとあった。

 そこで念のため、北条民雄さんの「望郷歌」を調べてみると、それが見つかって、たしかに、その中に、この歌が載っていたのである。

 つくつく法師なぜ泣くか  親もないか子もないか
 たつた一人の娘の子  館にとられて今日七日
 七日と思へば十五日  十五のお山へ花折りに    
 一本折つては腰にさし  二本折つてはお手に持ち
 三本目には日が暮れて……

 このように、細部で言葉の違いがあるが、ほとんど全く一致しているといえる。

 しかし、驚いたのは、載っていたのはこれだけだったのだ。
 
 一日前には野の花で
 一日後には館花
 三日もすれば花じゃない

と歌われるこの曲の最高潮部分は影も形もなかったのだ。
 ということはこの後半のドラマは前半部分から想像を拡げたハコさんの創作だったのだろうか?

 すごいひとなのだと改めて思った。

*補足
 やはり後半部分はハコさんの創作だそうです。
 ほんとにすごいですね。

 
 

 

 


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