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アイディアを生み出す極意|「ささるアイディア。」を読んで

アイディアをどう生み出すか。

古くから「一度考えて寝かせることで熟成する」といった方法が紹介されています(有名な古典については今後触れたいと思います)。しかし、現代の第一線で活躍するクリエイターたちは、どのようにアイディアを発想し、形にしているのでしょうか?

そんな疑問を抱きながら手に取ったのが、「ささるアイディア。」という本です。この本には、15人のプロフェッショナルたちが、それぞれのアイディア発想術を語っています。それぞれの視点や手法が紹介されており、私自身、大いに刺激を受けました。

ここでは、その中でも私が特に響いた部分を、自分用のメモとしてまとめました。具体的な内容が気になる方は、ぜひ本書を手に取っていただければと思います。


1.様々なアイディアの発想方法

全部で15人の方のアイデア発想方法が書かれていて、どれも参考になったのですが、特に私の中で参考になったなと思うことを書いておきたいと思います。

水野学さん|クリエイティブディレクター

・アイディアは「降りてくる」ものではない。センスからアイディアは生まれてくる。センスとは運動的センスと芸術的センスがあり、運動的センスは先天的である一方で、芸術的センスは後天的。後天的な芸術的センスとは知識。
・アイディアが求められるのはコンセプトの立案とそれを元にした表現の部分で、一番最初に「調査・研究」をしてからコンセプトの立案をするべき。調査して研究すれば知識が増え、アイディアが生まれる可能性が高くなる。
・知識からアイディアは生まれてくる。ただアイディアの検証は大事。成し遂げようとしている事柄の実現に寄与できるものか。
・アイディアの検証のものさしとしては「見つけてもらうためのアイディア」と「信頼してもらうためのアイディア」。本当に大切にしなくてはいけないのは、信頼されること。

川村真司さん|クリエイティブディレクター

・必ず意識しているものは「ラフスケッチひとつと説明1行」でちゃんとわかるものになっていること。
・まずクライアントからの課題を疑う。たとえば広告なら、こういうメッセージで、こういうCMをやりたいという課題があった場合、本当にそれで抱えている問題を解決できるのか、ということを考える。
・その次にアイディアのタネ(課題をどうとらえるかという視点)を意識する。切り口、ちょっとした発見、アイディアとは言えないけど、アイディアに育つ可能性のあるもの。ブランドや商品、ユーザーなど、それにまつわる様々な事柄を色々な角度から見ていく。
・アイディアとは、そのタネを具体化して、コンテンツや表現として成立している状態にできるもの。
・アイディアを考えるときは、基本的にひとりで考える。日常的にずっと考えているようなところがある。主観と客観をたえず行ったり来たりしながら。そのベースがありながらいざアイディアを出そうというときは、かならず紙とペンを用意する。思いついた中でよさそうなものは、とにかく紙の上に書き出していく。このときはタネとアイディアを区別しない。(数にして、だいたい100個近くになる)
・いろんな人におもしろいと思ってもらえるようなアイディアとは、ヒューマンインサイト(人間が共通してもっている普遍的な感情や関心)にふれることができているかどうか。人間としておもしろい、人間としてハッピーになれる、人間として笑顔になれるというアイディアでないと、機能しない。シンプルで根源的な驚きやハピネスをつくれるアイディアを目指している。

岩佐十良さん|クリエイティブディレクター

・いちばん大事なのは、真似をしないこと。アイディアを考えるときには視察にいかない。競合他社が何をしているかは見ない。
・現地にいって土地や地域を知る際に、「はやっているのはなにか」「なにをすればうまくいくのか」という視察をしてしまうと、アイディアに影響を受けてしまい、おもしろくなくなる。既視感があるからであり、それはなにかを参考にしているから。
・アイディアとは自問自答の中から生まれてくる。鍵を握っているのは、アイデンティティ。新しいプロジェクトに取り組むときには、まずその土地や地域を知ることから初めて、そこにあるアイデンティティを探る。とにかくその土地や地域にかよう。それによって地元の人たちの考えかたや文化のようなものが見えてくる。
・アイデンティティにたどり着く手がかりのひとつとして、「常識」という言葉。「そんなのは、ここでは常識だよ」「ここでは常識的に無理だよ」というネガティブな反応には手がかりがある。
・アイデンティティは言葉ではなく、イメージでつかんでおくことが多い。アイデンティティを共有するときには、プロジェクト関係者をその土地のお店に連れて行き、肌で感じてもらい、感覚のニュアンスを共有する。
・つかんだアイデンティティを元に、その地元の代表を10人くらい自分の中につくりあげて、その目線で考えていく。何かアイディアが出ても、「それで本当にいいの?」と問いかけて、もう一度壊して、ということを何度も何度も繰り返す。
・考える場所は、温泉に入りながら、山に登りながら、ひとりでクルマを運転しながら。温泉は1時間半くらい入る。最初は発想が俗世的になるが、30分から40分くらいすると、それが一段落して、ニュートラルな状態に戻り、発想が本質的になる。

鳥羽周作さん|オーナーシェフ

・料理は自己表現ではなく、お客さんを喜ばすためのもの。それをつくろうとして出すのがアイディア。あくまでも課題解決が目的。ここでの課題解決とは、食べるという体験を最大化すること。
・「おいしい」よりも「気持ちいい」を大事にする。小さな「気持ちいい」を使って、大きな「気持ちいい」をデザインする。
・発想力は、結局はインプットの量によって決まってくる。アイディアが直感だとしたら、必要なのは精度の高い直感。自分のなかの出たベースから、課題にぴったり合致する知識や情報を拾い出すこと。
・インプットの量を増やすために、日々の生活がそのままインプットになる。日常の気持ちいい体験をしたきに、「なんとなく気持ちい」で終わらせないこと。何かをしたり、何かに触れて「気持ちいい」と感じたら、その理由を自分なりに分析する。
・アイディアを考えるときは、基本はしゃべりながら考える。たいていは夜に散歩しながら、思いつくことを口にしていき、自分の中にあるデータベースから、そのときの課題の解決につながるものを探っていく。

龍崎翔子さん|ホテルプロデューサー

・コンセプトをどこにもっていくか。
・本当に大事なのは、その前のところ。「ロゴス(世界を構成する論理)」という思想の部分。思想は日々、問いかけを重ねるなかで出来上がるものであって、ある瞬間にハッと思いつくようなものではないが、そこがしっかりしていないと、ホテルの存在や活動のすべてが意味のないものになってしまう。
・この①ロゴスを、ある条件の中で実現するとこうなる、と方向性をいい当てて概念化してものが②コンセプト。このコンセプトを表現する③トーン・アンド・マナー(空気感や世界観)がその次。それを象徴する④キラーコンテンツがあり、実際に提供する⑤コンテンツやサービスがある。ホテルを作るときは、いつもこの5つの階層をイメージする。
・表層的なところから着想することもあるし、どこか一つだけ後まわしになったりすることもある。
・街の解釈をする3つの方法。①街を比較する、②地名を手がかりにする、③街の歴史をひもとく(Webで検索したり、人の話を聞いたり、本を参考にしたりしながら、色々調べて、その街の歴史をたどる)
・事業のアイデアは出すというよりも生まれてくるもの。普段から自分が持っている「問い」に対して見つかったり、生まれたりすることが多い。
・そのために大事にする4つの視点での問い。①消費者の視点、②経営者の視点、③メディアの視点(世の中に広まるか)、④神の視点(文化や社会といった目線からの課題解決)。

藤本壮介さん|建築家

・どんなプロジェクトに取り組むにしても大事にしているのは、まず「耳を済ます」こと。必ずしても人の話を聞くというだけではなく、色々な環境や事情について、先入観を持たずに向き合っていく。
・さまざまな要素について、「そもそも・・・」と、さかのぼっていく。どんどん問い直していって本質のようなものをとらえ、現在から少し先までを見据えていく。
・自分たちで出したアイディアではあっても、最初からそこにあるおもしろみや意味を全部把握できているわけではない。自分でやろうとしていたことの本質が遅れてやってくる。
・アイディアを考えた時点で、余白のようなものの存在を感じているところがある。言語したレベルですべてをわかっているわけではない。自分が言語で考えているところの少し外側まで含みこむようなイメージをもって、アイディアというものをとらえる。
・アイディアを考えていく上では、相矛盾するものを包括しようとしているところはある。矛盾とは、相反するものが一緒にいるからうまくいかない。それを相反するものが一緒だからいい、とする。矛盾を魅力へと変えていく。

伊藤直樹さん|クリエイティブディレクター

・創造性、クリエイティビティとは組織としてそれをとらえるべき時代に来ている。
・組織としてのクリエイティビティをとらえる手がかりの一つは、MITのネリ・オックスマン教授が提唱している「Krebs Cycle of Creativity(創造性のクエン酸理論)
・オックスマン教授はクリエイティビティを「サイエンス」「エンジニアリング」「デザイン」「アート」の4つの領域に分けて図解して説明している。アートとサイエンスは世の中に対する認知、デザインとエンジニアリングは制作を意味する。さらにアートとデザインは文化性、サイエンスとエンジニアリングは自然性。
・「アート」=「言葉」(言語的に考える能力のこと。いわば問う力)
・「サイエンス」=「数字」(世の中に起こっている現象を数値化して把握できる力)
・「エンジニアリング」=「コード」(プログラミングなどの能力)
・「デザイン」=「ビジュアル」(ビジュアル表現の能力)
・この4つの領域を網羅する形でチームを作る。自分の領域である本籍地の領域とは別に、ある程度は知っている「もうひとつの領域」をもち、1プラス0.5で、1.5スキルもつ。クリエイティビティディレクターはすべての領域に通じる。
・企画と実装の一体化が大事。

齋藤精一さん|クリエイティブディレクター

・発想の出発点はほぼ同じで、「本当にこれでいいのかな」という違和感から始まる。(例:美術館の壁は本当に白でなくてはいけないのか)
・おとなの事情のようなものを問い直して、ひとつひとつほぐしていくところにアイディアの源泉がある。
・積極的に常識を疑おうとしているよりは、やはり違和感から始まっている。自分なりの普遍的正解のようなものがあり、聞いたときに、自分なりの理想像に照らして、ズレを指摘。
・自分ひとりで社会の理想像を描くと、どうしても経験がベースになる。個人的な感覚とならないように、総務省などが発表しているデータや研究機関のレポートなどを参考にして、ひとりよがりにならないようにする。
・企画に落とし込むときは、一部の人たちだけを対象にする。最近は社会でインクルーシブ(包括的)という考え方が重視されているが、最初からそこにこだわりすぎると大切なものを損なってしまうこともある。

三浦崇宏さん|クリエイティブディレクター

・オリエンの場では、クライアントの話を聞きながら、いくつかの質問を自分に投げかけ、それに答えることでアイディアのもとが浮き彫りになる。
・出てきたアイディアをクライアントとの対話の中で確認しながら、精査する。顔色や身体の動きなどを見ながら。なんとなく解決の糸口のようなものを掴んだら、それを持ち帰ってしばらくは寝かせる。そして頃合いを見て、考えをまとめるための作業時間を設定して、頭の中にあるものを書き出し、メモにまとめていく。設定する時間は3時間程度。Catalyst for Changeが特に大事。
・優れたコンセプトの3条件とは、①企業やブランドが起こしたい変化に対して忠実なこと、②あらゆるレイヤーの行動変化に貢献できること、③それに触れた人がワクワクするか。
【自分に投げかける10個の質問】
・toBだったら、toCでもうけるやり方はなにか
・toCだったら、toBで設けるやり方はなにか
・いちばん成長できるパートナーはどこか
・単価を2倍から5倍、10倍に上げるにいはどうしたらいいか
・顧客をリピートさせる仕組みはつくれないか
・現状の顧客に対して、本当の顧客は誰か
・現状の市場に対して、本当の市場はどこか
・現状の競合に対して、本当の競合はなにか
・ぜんぜん別の業界から持ってこれるケースはないか
・100倍成長したら社会はどう変わるのか。
【まとめていく際のメモの項目】
・プロジェクト名
・対象商品
・GOAL(プロジェクトで達成すべき目標)
・Vision(企業/ブランドのあるべき姿)⭐️
・Fact(武器になる企業/ブランドの事実)
・Moment(着目すべき社会の変化)
・Insight(顧客の心情)
・Catalyst for Change(変化のきっかけになる考え方)⭐️⭐️
・Rule(この企画が成功する内外の条件)
・Action(実際のブランドの活動)

篠原誠さん|クリエイティブディレクター

・アイディアがジャンプするポイントが5つある。
・①こうなったらいいな、②「なにをいうか」(what to say)、③「どういうか」(how to say)、④どういうやり方をするか、を考えてwhat to sayとhow to sayから離れる、⑤ディテールに条件を課して、足かせをつけることで思い浮かばせる。
・最後に「こうなったらいいな」で考えてきたアイディアから、最初の設定した「こうなったらいいな」を叶えてくれそうなものを残して、提案する。
・世の中の人たちがどんなものが好きと思っているか、いつも気にしている。心がけることの一つは、東京を無視すること。

2.私が感じた発想のヒント

「ささるアイディア。」を読み、プロフェッショナルたちが語る発想術を学ぶ中で、アイディアの生み出し方に多様なアプローチがあることを改めて実感しました。特に、自分の考えを深めるための「問い」や、実際に形にするための「プロセス」が重要であることが印象に残りました。

本書で得た知識は、これからの仕事やプロジェクトに大いに役立てていきたいと思います。また、アイディアを出すたびにこの内容を振り返り、試行錯誤を繰り返すことで、さらに実践的な知見を得られるのではないかと期待しています。

このメモが、皆さんのアイディア発想のヒントにもなれば幸いです。ここには触れていない方のアイディア発想方法も参考になりますので、ぜひ本書も手に取ってみてもらえればと思います。


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