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[2] 恋になれなかった恋

約2年半前、私の元同期はマッチングアプリにハマり "マッチングアプリソムリエ "と化していた。いかがわしい「出会い系」ではなく、でも婚活サイトほど重苦しくもない恋活ができる「マッチングアプリ」は革新的だった。

私は元同期にそれぞれのアプリの特徴を聞き、「with」というアプリをインストールした。そこでは同年代の男性とやりとりをあまりしたことがなかった私にとって、気軽にいろんな人と出会えて新鮮だった。やりとりを続けるうち、3人目に出会った人がすごく気の合う人で、驚くくらい共通点が多くて、考え方も似ていた。ミーハーを小馬鹿にするところなどが特に。

はじめて会った日はランチ、喫茶店、カフェをはしごして5時間くらい話し込んだ。「前から知り合いでしたっけ?」という感情が生まれるくらい話が弾んだ。私達はそれぞれ大学でデザインの勉強をしていたが、能力でいったら彼の方が1万倍優れていて、尊敬できる人で、それもあってかもっと彼を知りたい、近づきたいと思った。


けれど会う回数を重ねていく度、相手のことを知って距離が縮まっていくのが怖くなってきた。なぜだか、ちゃんと内面を好きになって付き合うのが怖いと感じたのだ。だからなのか、わざと男ウケの悪い格好をしたり、先鋭的なウルフヘアにしたり、戸川純の挙動不審さに憧れて取り入れてみたりした。ラインの返信も遅めに返した。

それくらい反抗してもまだあの謎の怖さからは逃げられなかった。会う約束を取り付けるまでワクワクしてたというのに、会う前夜になったら急に得体の知れない大きな恐怖が襲ってきて、涙が止まらなくなって動機がして息が荒くなって手が震えた。こんな経験初めてで、自分の体が示す拒否反応に戸惑った。いよいよ私はなんだか自分の様子がおかしいことに気づいた。

それでも会う当日にはちゃんと男ウケの悪いお洒落な服着ておめかしして出掛けた。会ったらやっぱり楽しかった。もっと一緒にいたいと思った。でも帰りの電車ではもう涙が止まらなかった。なぜ?なんで?どうして?悲しくて「泣いてる」わけじゃない。自動的に目から水が溢れてきた。ああいう系の「泣く」は顔が赤くなったり熱くなったりしないので電車でも易々と泣けてしまう。「泣く」理由を知らないからだと思う。あの得体の知れない大きな恐怖が何者なのか理解していないから。

それからわたしはずっとその恐怖について考え続けた。

無知はよくないと前々から考えているからだ。


まず、具体的にどこが恐怖なのか?

ノリとか流れではなく、ちゃんとお互いの内面をみて好きになっていくことが怖いのではないか?「誠実な好き」は、本気だから関係が崩れたときの代償がデカい。(現に私は会ってすぐヤッてから付き合うパターンしか経験がなかった。恋愛で傷ついたことなんか全然なかった。)


ではなぜ誠実な恋愛ができないのか?

これは私が高3の時に遭った強姦事件時の対人関係のもつれに通ずるのではないか?と考察した。

高校の夏期講習の帰り道を歩いている最中、後ろからナイフを首に突きつけられ、近所の砂利の駐車場で処女を喪失した私は、精神にかなりダメージを与えられていた。だけどそのダメージについて、友人も家族も担任の先生も誰にもわかってもらえなかった。余計に踏みにじられたりもした。(当時は私の精神が異常だったので周りの人達がすべて悪いわけじゃなく、仕方のなかったことだと思っている)

私はあのとき「今まで皆と良好な関係を築けていると思ってたのは自分だけで本当は孤独だったんだ、頼りにできる人なんてひとりもいない価値のない人間だったんだ」と深く傷ついた。そんな感情に全身を襲われて震えて毎日泣いた。気が狂っていた。

私はそうして重度の人間不信に陥った。


だから誠実な恋愛ができないのではなかろうか。

自分を守るために他人を信頼することを放棄しているのではないだろうか。



でも実際、性犯罪被害に遭って、誠実な恋愛ができなくなることがあるのか?飛び火してそんなとこにまで影響を及ぼすことがあるのか?ありえないのではないか?そう思い、とりあえず「PTSD」でググった。

上記URLのサイトの[思考や気分に対する悪影響]の欄の最後2行の文で

>恐怖、戦慄、怒り、恥辱などの否定的な感情しか感じず、幸福感や満足感が感じられなくなり、人を愛せなくなることもあります。

は...?全然ありえる話だった。学校からの帰り道歩いていただけなのに後ろから突如襲われて人を愛せなくなるだなんて。

私は絶望した。事件から9年くらい経ってもまだ私を苦しめてくる。

もう終わったことだと思っていたのに全然終わってなかった。

しんど。無理ゲー。消えたい。つら。詰んでる。

思い浮かぶ言葉ではどれも事足りないものだった。

この気持ちを表現できる言葉は存在しない。

私が何か悪いことをしたわけではなく、あの事件の犯人のせいで自由に恋愛ができなくなっている事実がとてもとてもつらかった。納得できない。


 

結局、マッチングアプリで知り合った彼とは4回会ったきりになった。

次の約束を取り付けるラインの途中で私はとうとう逃げ出したのだ。

あの得体の知れない大きな恐怖を払拭できなかったから。

すこし正体を暴けたけど自分の力でどうにかできる相手ではなかった。


こうして、気の合う尊敬できる彼とは恋愛に発展する前に終わった。

終わったというか始まりもしなかった。

だから「恋になれなかった恋」

名前をつけて書き起こしてみると格好がつくね。

彼にも伝えるまでに2年半かかったけれど、

成仏できた気分。

南無南無

さようなら

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