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孤独が見てる 【短編小説】
家のすぐ近くの公園には壁がある。
本当にただの単なる壁なんだが
ただ、公園の石壁がコンクリートなのに対して、その壁だけは何故かひび割れた茶色いレンガ調の壁なんだ。
いつできたかもわからないその壁は私が物心つく前からあったような気がする。
私が子供であればそんな壁なんて気にも止めずただ友達との遊びに夢中になって一日を過ごす事だろう。
だけど、私はもう大人になってしまった。
子供の頃のような無邪気で何かに没頭できるような歳でもない。
人生も3分の1が経過してしまい、ただ無機質に仕事をこなして家に帰ってご飯を食べて寝て起きてまた仕事しての繰り返し。
何の刺激もない普通すぎる日常に私は何の気の迷いを起こしたのか
仕事帰りの誰もいない真っ暗な公園に向かいその壁を見つけた。
他の壁と作りが違うだけで至って普通のレンガの壁。
ただ少しだけヒビが入ってるだけの壁を前に、私は引き込まれるように一歩ずつ壁に近づき、ザラザラとした壁に両手を触れ、遂には頬を寄せた。
夜風に晒されて表面はひんやりと冷たく、それでいて石の壁にはない温かみがある、特に材質とかそう言ったものに詳しいわけでもないのでただ自分の感性でそう思うのだ。
公園で1人、しかも人気のない夜の時間帯に女が壁に頬を振り寄せている姿など他人目線で見たら気持ち悪い変な人と思われても仕方がないと思う。
しかし、自覚していても何故か惹きつけられる。
特にこの、ひび割れた場所。
ひび割れて出来た隙間の先には何があるんだろう
もはや自分でも止めることは出来ない。
私は思わずひび割れている覗き見た。
閉ざされた薄暗く僅かな空間はまさに無の世界。何者も介入することは出来ないまるで異空間にでも繋がっているようだった。
私はさらに目を凝らしてまだ見ぬ何かがないか狭いひび割れの中を見つめ続けた。
すると何かと目があった。
気のせいかと一度目を擦り、もう一度隙間の中を覗いてみる。
しかしそれは見間違えなどではなく、確かに何かの瞳がこちらをじっと見つめ返していた。
その瞳は人のようで、動物のようで、何か別のもののようで、私なんかに答えがわかるわけもなかったが不思議と怖くはなかった。
むしろ羨ましかった。
私は壁の中に手を伸ばした。
「私もそっちに連れて行って」
すると伸ばした手は何かに引っ張られるように壁の中に入っていく。
これでようやく、私は現実の柵から解放される、、、。
グキッ、、、。だが解放されると思っていた私の身体は解放という崩壊して行った。
壁の隙間から伸びる手に引っ張られ壁にめり込んでいく。
骨の軋む音、肉のすり潰される感覚、全身から溢れ出る血と体液、欲したものと現実の狭間で押し潰される痛みは想像を絶するもので助けを呼ぶ事も抵抗する事もできず壁に飲まれた。
子供たちが元気に和気藹々と遊ぶ公園には、一つだけレンガ調の壁が不自然に存在する。
血にも似た真っ赤なレンガ調の壁の前には誰のものかわからない汚れた女性もののパンプスが一足、転がっていた。