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ヒーローは暗闇でニヤリと笑う

この世にヒーローなんて存在しない。


そんなことが言われ続けていた時代はもう終わりだ。
俺がこの世界を救ってやる。



そう遠くない未来。人口が増え過ぎた地球では、温暖化が進み、多くの資源不足が問題視されていた。その影響もあってか、2020年より約15%以上犯罪発生率は上昇していくばかりだった。

国では全てに対応できない。しかし犯罪者は増える一方。 


人の悲鳴が聞こえる。


この世界は今、暗闇の中にいる。


都市部から少し離れた田舎町。そこに古びた一軒家がぽつんと建っている。今はもう見かけることはなくなったラジオから、男の声で近くで強盗事件があったという内容が聞こえてくる。

さて、出番か。

電気もつけない真っ暗な部屋から1人の男が不敵な笑みを浮かべながら出ていく。


強盗現場では、まさに一触即発の緊張状態にあった。警察がなんとか人質だけは解放するように説得を試みるが、強盗は聞く耳を持たず、怒声をあげるばかりだった。
少しでも刺激してしまえば、人質の命が危ない。警察は突入するにもできない。
こうしている間にも無線から別の場所で起きている事件を知らせてくる。

どうすればいい!警察にも徐々に苛立ちが目立ってきた。


やれやれ、、、。すると野次馬の群衆の中から、1人の男が割って入ってきた。

「民間人は下がってなさい!」この場を制御する警官がそういうが、男は止まらない。
スピーカーで犯人に呼びかける刑事の隣にまで歩を進める。
「なんだ、あんた!?」
「ここは俺がやるから、あんたら警察は別の現場行ってきな。」男は刑事の肩をポンと叩くと、勢いよく走り出し、突入を図った。
窓は完全に締め切られ、ブラインドで中の様子は見ることはできない。警察にとっては様々な判断のしにくい状況だが、男にとってはこれほど条件のいい現場はない。、

なにせ、自分のやることを他人に見られることがないのだから。


裏口の鍵を壊し、犯人に気付かれないように侵入する。半ば思ったより静かで、とても何人も人質がいるとような様子は感じられない。
そして何より、この嗅いだことのある香り。


ヒーローの勘は当たっていた。


外から声が聞こえていた一際広いフロアは一面血の海になっていた。
奥のソファにはまるで傭兵のような重装備に身を包んだ若目の男が1人、大きく鼻息混じりの荒い呼吸をして座っていた。

「なんだ、お前?警察か?」そういう犯人の身体は返り血を全身に浴びて赤黒くなっていた。
「全員殺ったのか?」
「ああ。警察がグズグズしているかイライラしてな。」犯人の殺人に対する罪悪感も、反省の色もないとこに男は悟った。

こいつは多分、俺と同種だ。

この雰囲気、人を人と思っていない無情さ。


ヒーローはニヤリと笑った。


「まぁ、いいや。とりあえずお前邪魔だから死ねや。」犯人は持っていた拳銃を男に向けて発砲。しかし残念なことに今相手にしているのは人外、人の理を外れた力を持つヒーローなのだから、当然のように弾丸はまるで鉄の何かに当たったかのような音を立てて平たく潰れて地面に落ちた。
「は?」目の前で起こる異常に驚きを隠せないのか男はさらに頭や心臓に向かって銃を連射した。だがもちろんの事どこに当たろうが並の銃弾が効くわけもない。けたたましい銃撃音と硝煙の匂い、そしえ潰れた弾丸が無情にも床で息絶える音で満たされる。
遂には銃弾も底を尽き、男に残された武器は大型のナイフと銃の効かないヒーローへの恐怖だった。
「どうした?ほら、もっと何かあるだろ?この程度じゃないんだろ?」
「化け物が、、、近寄んな、、、!やめてくれ、、、っ!」腰を抜かし恐怖で顔は歪み目には涙を浮かべ、後退りをしながらも命乞いをする男には、つい数分前までの威勢の良い強盗の面影はどこにもなかった。それもまだフリだと思っているヒーローはただ笑顔でゆっくりと近づいていく。
「何をそんなに怖がってるんだ?こっちは丸腰だぜ?ヴィランさんよ?」
男の背中が壁に到達すると、ヒーローは中腰になり目線を男に合わせて更なる煽りを入れていく。だが既にナイフも落としてしまった男には最早成す術は何もなかった。
人とは不思議なもので極限の緊張状態に陥ると普段の何倍にも思考する速度が上がり、男の目には人には到底想像もできないような私のイメージがあまりにも鮮明に映し出されていた。これまで何人もの人々を殺してきたからこそわかる。今目の前に立っているこの異常な男はヒーローなどではない。


むしろ、こっち側の人間だ。


「はぁ、つまんな。てか、なんで俺銀行にいるんだっけ?」


のちのニュースでこの銀行強盗事件は被疑者が利用者を人質にしていたものの人質全員が銃で殺害され、死亡。
被疑者自身も警察に取り囲まれ、逃げられないと判断し自ら命を絶ったと報道された。

だが、実際には現場はそんな話では済まないほど、まるで地獄のような光景が広がっていた。


鼻をつく強烈な匂い

店内に立ち込める空気さえも重苦しく

白いタイルは趣味の悪い赤黒いタイルへと張り替えられ

そこらに飛び散る「なにか」だった欠片

そして何かが全身に纏わりつくような感覚

その場を訪れた警察官数名はあまりの凄惨さと被疑者死亡の確認の末に現場検証や捜査を断念。銀行の原状回復に力を注ぐことしか出来なかったという。しかし銀行側もあれほど凄惨な事件が起きてしまった手前、原状回復が出来ようともそこで営業を再開することもなく、事件が起きた支店はそのまま閉店することになったらしい。

ここまで事件のことを話してきましたが、途中で現れたヒーローはどうなったのか?

もちろん、事件が終わりを告げた後ヒーローは何事もなかったかのように銀行の出口から出てきたという。まるで普通に銀行でお金を下ろしにきた一般人のように。
ただ、一つ違ったことと言えば全身が赤黒く染まったヒーローは己の拳についた「なにか」だった欠片を口に運ぶと、それを咀嚼しながら到底ヒーローとは思えない薄気味の悪い満面の笑顔で帰って行ったという。


やはり、この世にはヒーローなんて存在しない。



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